2025.01.31
社員の家族が憧れる会社へ 造船技術を活かした災害対策|株式会社カナサシテクノサービス

当記事は『令和6年度静岡市中小企業技術表彰』との連動企画です。
株式会社カナサシテクノサービスは、造船業で培った溶接や加工の技術を活かし、耐震性貯水槽(防火水槽)や飲料水兼用耐震性貯水槽(応急給水槽)を製造販売している会社です。
この度同社は、災害時における集合住宅・病院・介護施設等の飲料水確保を目的とした新たな給水装置(給水管)を開発しました。
本製品は震災時や緊急時の水確保に大きく貢献するとし、2024年度静岡市中小企業技術表彰を受賞しました。
新たな給水装置はどのような想いから生まれたのでしょうか。
また、同社はどのような会社を目指しているのでしょうか。
武田孝之社長に伺いました。
水質低下のリスクか、災害時のリスクか
震災のとき、もっとも重要となるのが水の確保です。飲料水や生活用水を確保する手段の一つとして「受水槽」を利用することが考えられます。
受水槽とは、マンションや学校といった建物で、水道管から来た水を一時的に溜めておくタンクのことです。受水槽には、断水やトラブル時の水確保以外にも、水道水の安定供給や水圧の調整といった用途があります。
すなわち、安定した水の供給や非常時の備えとして、受水槽が利用されてきました。
しかしながら、受水槽にはいくつかの課題があります。たとえば、受水槽は一般的に屋外に設置されます。すると必然的に、紫外線や気温の影響を受けることになります。紫外線や気温はタンク内の水にも影響を与え、殺菌作用を持つ塩素濃度の低下や水質の悪化を引き起こします。
また、タンクそのものの強度にも不安があります。紫外線により強度が低下したり、災害によって破損するリスクもあります。すると、破損箇所から雨水や異物が侵入して、飲料水として利用できなくなることがあります。そのため、受水槽には一年に一回以上の点検が必要とされていました。
厚生労働省の通知では、水質の安全性向上と管理コスト削減のために受水槽式から直結式への移行を推奨していますが、受水槽を利用しないデメリットとして、緊急時の貯水タンクを失うという課題が出てきます。
水質低下のリスクを取るか、あるいは、災害時のリスクを取るかが懸案事項となっていました。
そこで私たちが開発したのが、集合住宅・病院・介護施設等の飲料水確保を目的とした給水装置(給水管)です。

前例がないことへの挑戦
本製品は地下に設置されるため、環境の影響を受けにくく水質劣化を抑えられます。また、その構造から地震にも強く、災害時の水確保にも貢献します。
開発には、公共水道で活用されている飲料水兼用耐震性貯水槽の技術を応用しました。たとえば静岡市では、すでに中学校の学区単位で地下に埋めるタイプの緊急貯水槽が使用されています。
ただし、こちらは公共水道の一部なので、災害時には地域に住む多くの人々が使うことになります。つまりは、「公助」としての地域共有の水となります。
一方で、私たちの給水装置は水道メーターから建物の間に設置されるため、施設の利用者のための水を確保できるようになります。これは「自助」の水です。
水槽を設置した方が使用できる水の量も増えるため、防災強化型のマンションや介護施設などにも活用できます。とくに病院のように、治療のために多くの水を必要とする施設で活躍することが期待されています。
では、なぜ今までこのような装置が生まれなかったのかというと、水道法のルールにこのようなタンクの仕組みについて取り決めがなかったからです。前例がなかったんですね。
ですので、最初はなかなか行政の許可が下りませんでした。
しかし私たちは諦めず、装置の意義を訴え続けました。すると震災による給水設備の破損被害が頻出する中で、徐々にですが、私たちの装置の有用性が認められるようになっていきました。

他がやっていないことに積極的に取り組む。
そして、前例がないからと諦めない。
これこそが弊社の強みであると考えています。
足りない部分は力を借りて
弊社はもともとは静岡市清水区にある株式会社カナサシ重工の一部門でした。
船という大きな製品に携わる一方で、防火水槽・耐震性貯水槽をはじめとする鉄鋼製品を製造・販売していました。
2012年にカナサシテクノサービスとして独立してからも、全国において、設置場所や環境に合わせてさまざまな機能を備えた製品をご提案しております。
弊社の貯水槽は耐久性に優れており、東日本大震災で被災した地域に設置された当社の貯水槽は60基以上ありますが、そのすべてに損傷は見られませんでした。
造船で培った金属加工のノウハウが活きた例ですが、けっして我々の力だけではないとも考えています。
弊社は製品開発において、外部の専門企業や研究機関のお力をお借りすることが多々あります。弊社は造船所時代の先輩からご縁をつないでもらいながら、自社の技術や知識だけでは解決できない課題を乗り越えてきました。
今回の給水装置開発においても、装置内の水が循環しやすい構造を探るために、東京理科大学に協力を仰ぎました。
小さな会社ですが、創意工夫を凝らし、足りない部分は外部の力を借りて成長してきました。
社員の家族が憧れる会社へ
造船所時代、私は総務担当として採用されました。なので技術職でもないし営業経験もありませんでした。
会社を独立できたのは、従業員のみなさんや協力事業者の方々をはじめ、多くの人のご理解とご協力によるものだと信じています。
ですから、「みんなでつくったカナサシテクノサービスを良い会社にしたい」という想いは人一倍強いです。
「良い会社」と一言で言っても、待遇が良いとかブランド力があるなど、さまざまな要素がありますが、私が考える良い会社の例として「社員の家族が憧れる会社」というものがあります。社員のお子さんが「お父さん・お母さんの会社で働きたい」と思える会社にしたいです。

こんな立派な会社なんだ。
こんなやりがいのある仕事なんだ。
この会社のおかげで子育てができた。
そのように、社員たちが胸を張れる会社を目指したいです。
そのためには、社員たちが安心して働ける職場環境を整えるとともに、カナサシテクノサービスの目玉製品をつくる必要を感じていました。今回の製品が、弊社のアピールポイントになることを期待しています。
カナサシテクノサービスの使命
世の中では福祉・環境・防災の三つが重要視されていますが、唯一、防災だけは制御できない自然災害に向き合っています。地震メカニズムの研究が進んでも、発生予知に絶対はなく、また、地震を発生させないことも不可能です。
その中で我々は先手を打っていかなければいけません。「ルールがないから」や「前例がないから」といった理由で諦めず、我々が良いと思った方向に歩みを進めていきます。
そのようにして、災害による被害を最小限に抑え、日常の生活を一刻も早く取り戻すお手伝いをすることが私たちの使命だと考えています。

協力:静岡市経済局商工部産業振興課
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