2025.05.21
全員活躍のために組織を変革する | 株式会社NOKIOOインタビュー

社員が活躍するためには、個々のスキルを伸ばすだけではいけない。すべてのメンバーがパフォーマンスを発揮できるように、組織を変革していく必要があったんです。
——そう語るのは、浜松市を拠点に人材育成・組織開発事業を展開する株式会社NOKIOO(ノキオ)代表取締役、小川健三氏です。
同社は〈⽇本のチームの景⾊を変える〉をミッションに、全員活躍やマネジメント力強化、ダイバーシティ推進などに力を入れて取り組んでいます。しかし創業時は、Web制作の受託開発事業をメインに行っており、長時間労働や社内の軋轢に悩まされていたといいます。
NOKIOOはどのような経緯でWeb制作事業から人材育成事業へシフトしたのでしょうか。また、「ノキオスタイル」という柔軟な働き方の裏側にはどのような信念があるのでしょうか。
Web制作から人材事業へ
当社の主な事業は人材育成と組織開発ですが、2011年の創業からしばらくは、Web制作をメインとしていました。
人や組織に関する事業を始めるきっかけとなったのは、創業メンバーである小田木さんの原体験でした。
彼女は出産・育児で会社から離れた期間に、仕事やキャリア観に対して葛藤を抱え、それを乗り越えるために模索を重ねていたと言います。同じような悩みを抱えている女性は少なくないだろうと思い、子育てをブランクにしたくない方々のための人材育成プログラムを始めました。
また同時期に、社員が疲弊するような働き方からの脱却を目指しました。それまではお客さまの要望のためにプライベートを犠牲にして働くことが慢性化していましたが、「もっと持続的に働ける・成長できる組織にしたい」と思うようになったんです。
組織づくりを見直す中で、離れていく社員もいました。しかし一方で、組織の目指す姿に共感する社員が増えていきました。

大きな転機が訪れたのは2017年ごろです。
その時期、僕らのような若い会社の経営者が集まってベンチャー企業のネットワークを立ち上げ、会社同士の横のつながりが強化されました。
▼浜松のベンチャー企業コミュニティ「Hamamatsu Venture Tribe(浜松ベンチャートライブ)」
https://hamamatsustartupnews.jp
さらに、浜松の鈴木康友市長(現・静岡県知事)による「日本一の起業家応援都市」宣言がこれを後押しする形になりました。市長は、街発展の基礎となった産業力を改めて強化し、浜松市を「ベンチャーの聖地」にするべく、市内のベンチャー企業の成長やコミュニティ形成の支援に取り組み始めたのです。
その中で市長とお話しする機会に恵まれたので、事業として取り組んでいた女性のリスキリングについて説明させていただきました。
リスキリングとは新たにスキルを学び、キャリアアップや転職に役立てることですが、とくに専業主婦の方たちがこれに積極的であるいうことがわかってきたのです。
「子育てが一段落した女性の社会復帰は地域経済の底上げになるはずです」とお話ししたところ、市長が興味を持ってくださいました。
リスキリングや地域企業とのマッチングに予算を付けてくださったことで、コンテンツづくりやデータ収集が進み、人材育成事業の基盤が固まりました。
女性の働き方に限界が近づいている
女性活躍の支援を始めたことで明らかになったのは、多様性を競争力に結びつけられている企業が思った以上に少ないという現実でした。
たとえば、僕らのサービスを通して新たな企業で働き始めた女性の方が、すぐに離職してしまうようなことがありました。その方々から話を聞くと、どうも組織の体制にも問題があるように感じられたのです。
世間でも女性の働き方が大きく変わってきた時期でもあります。
以前は、女性向けのリスキリングに関するイベントを開催すれば、ほぼ全員が専業主婦でした。ところが、ある時期から専業主婦の割合が減り、代わりに育休期間中の女性の割合が増えていきました。
これは法制度の柔軟化や政府による後押しにより、育休を取得しやすくなったことも影響していると思います。そのような方々が復帰前の時間を使ってスキルアップを図りたいと考えていたのです。
学びに前向きな方が増えているのは良いことですが、これは見方によっては、今の働き方や組織のあり方に限界が近づいているのではないかとも感じられました。

育休中の女性のキャリアのためにできることをやろうと、2020年、オンラインスクール「育休スクラ」(現:スクラ)をリリースしました。
プログラムの内容は、自社の社員教育の中で生まれたノウハウや、現場から上がってきた声を土台にしつつ、キャリア理論や人材育成理論などでそれを補強して練り上げていきました。
全員活躍には組織の変革が欠かせない
コロナ禍でのコンテンツ発信に注力したことで、育休スクラへの問い合わせは順調に増えていきました。
ところが、営業先でプログラムの説明をすると、「これは育休中の女性に限らず、マネジメントを学びたい男性にも有効じゃないかな」とご指摘を受けることがありました。
たしかに、育休スクラで取り扱う内容は、論理的思考やマネジメントのように、汎用性の高い人材育成プログラムです。これはとくに、新たなリーダーの育成や社員のリスキリングに取り組んでいる企業に需要があるように思えました。
また、世間でもリモートワークやオンライン会議などが取り入れられるなど、働き方が大きく変わり始めていた時期です。
社会復帰を考える女性に限らず、すべての社員が活躍できる組織が求められているのではないか……。今こそ、組織を変革するような人材育成プログラムが必要だ!
そう考え、事業内容を育休中の女性に限らず、組織全体の支援に拡張していきました。
一番の実践者でありたい
自社での経験やノウハウは、人や組織に関する事業を営むうえで有用な知見になります。自分たち自身が体現できていない考え方や行動は、お客さまに提供できませんから。
組織開発において重要なのは、新たなメソッドや方法論を実践に取り入れるとともに、具体的なシーンに落とし込むことです。
たとえば、NOKIOOではチームの成果を最大化するために「全員マネジメント」を取り入れています。全員マネジメントとは、メンバー全員がリーダーシップを発揮し、また自己管理を行うことで、社内一体となって目標に向かって進んでいくという考え方です。
「全員マネジメント」を実現するために、NOKIOOでは以下の7つの行動体系を定めています。

・チームの⼟台となる「共通の価値観」を育む
・⽬指すべき「成果」を描き、チームで握る
・成果を起点に、「役割」をデザインする
・「問い」の質を上げて、本質に集中する
・「対話」によって信頼を深め、着眼点を増やす
・助け合い、「連携」して、新しい価値を⽣み出す
・「事実」をベースに学習し、チームを成⻑させる
この中の〈助け合い、「連携」して、新しい価値を⽣み出す〉という行動体系を例にするのであれば、社員同士のコミュニケーションにおいて「ヘルプ」という言葉が浸透しています。
チームとしての共通言語を持っていることが、連携のしやすさにつながっているのだと考えます。
▼「ヘルプシーキング」などNOKIOOの考えに則した共通言語について
https://www.nokioo.jp/president/162?p
やはり、自社の実践や体験に基づいてサービスを提供しているからこそ、お客さまにも実践してもらいやすいのだと思います。
NOKIOOはこの15年で5回ほど大幅に社員が入れ替わる時期を経験しています。そこでの学びから「組織を大きく動かしていくタイミングに新陳代謝はつきものだ」と考えています。
ですので、組織開発に関わったお客さまから「辞める人が増えているけど大丈夫かな?」というお声が聞こえた際は、「健全なことですのでご安心ください」とご説明させていただきます。一方でネガティブな動向が予想されるときは、未然に手を打つことができます。
自分たちがいろいろと経験しているからこそ、お客さまの組織の変化にも敏感になれるのでしょう。今後も、自分たちが一番の実践者でありたいと考えています。
魂の入っている事業・入っていない事業
NOKIOOの事業の多くは、入念なヒアリングや観察を通じて、お客さま自身も気づいていなかった本当の悩みや想いを時間をかけて引き出す中で生まれてきました。
15年の間には失敗もたくさんしました。大小合わせて2、30個ほどは頓挫したと思います。
失敗した事業やサービスの多くは、自分たちの「やりたい!」を優先させており、お客さまの困り事にリーチできていなかったという共通点がありました。
加えて、NOKIOOでなければできない理由も欠けていました。
たとえば、リクルート用のWebサービスをやっていたこともありますが、他社と差別化できる独自性がありませんでした。つまり、当社がやる必要性がないわけです。
そんな「魂が入っていない事業」は失敗しても仕方がありません。
地方で働くとはこういうことか
働き方や組織づくりへの姿勢は、NOKIOOの創業まで遡れます。
僕は静岡県浜松市で生まれ育ちましたが、大学卒業後は東京の電機メーカーに入社しました。そこはいわゆる大企業で、同期も800人くらいいました。
僕が配属されたのは非常に硬派で堅実な部署でしたが、徐々に内向きな論理が気になり始め、言いようのないモヤモヤが募っていきました。
もしかしたら、働き続けるうちにモヤモヤを感じなくなる日が来るかもしれないとも思いました。しかし、それが自分のキャリアの終着点になる気がして、少し恐ろしく感じていました。今思えば”若さ故”かもしれませんが(笑)
それからモヤモヤを断ち切るために、思い切って転職活動を始めました。会社探しには転職エージェントも利用しましたが、お勧めされるのは前職と肩を並べるような大手企業ばかり。
どうせならもっと変化がほしいと思い、地方への就職を考えました。そこで、地元である浜松への転職を決めたのが30歳の頃。
地元に戻って驚いたのが、その旧態依然とした働き方です。それまでは「どこにでもインターネットはあるし、仕事に支障はないだろう」と考えていたので出鼻をくじかれた気持ちになりました。
とくに、キャリアへの考え方が違いすぎました。
今でこそキャリア自律や自己成長、多様な働き方が一般的になってきましたが、当時は地方ではまだ、そういった意識的な働き方はマイナーでした。「地方で働くとはこういうことか」と思いつつ、やはり体質に合いませんでした。
「組織を変えていこうかな」とか「やっぱり東京に戻ろうかな」などと考えた末に、「理想とする働き方や組織がないのなら自ら鑑になろう!」と、仲間たちとNOKIOOを立ち上げました。
従来の働き方に縛られない「ノキオスタイル」
創業において明確なビジョンがあったかというと、なんとも言えません。ただ一つ、働き方においては創業からずっと変わらないNOKIOOのコアがあります。
それを僕らは「ノキオスタイル」と呼んでいます。ノキオスタイルとは、従来の働き方に縛られず、自分たちでルールを決めていくことを指します。
たとえば世間では、「仕事ではスーツを着る」とか「朝の9時から夕方の6時まで仕事をする」といった働き方がメジャーですが、その理由の多くは「それがフツウだから」という消極的な選択の末だと考えます。
しかし、はたしてそれが自分たちの会社にとって最適なのか?
そうやって就業時間やオフィスのあり方、組織の仕組みなど、一つひとつ受け止め、働き方や業務に反映させていく動的な姿勢がNOKIOOにはありました。

言ってしまえば、ノキオスタイルの根っこには「社員の自律」があります。
個々のメンバーが自律的に行動し、相互の信頼を築くとともに、自分の役割や会社への貢献の形などを考えながら仕事をすることが土台にあるんです。
つまり、あくまでも目的を達成するための手段なのですが、それを新しく入ってくる社員に伝えるのはなかなかに難しかった。
そのため、最初の5年間はまったく上手くいきませんでした。経営やマネジメントの知識も不足していましたし、会社のパーパスを浸透させる取り組みも不十分でしたから、当然といえば当然です。
結果的に、ノキオスタイルの表面的な「自由さ」や「斬新さ」ばかりが目立ってしまいました。
そんな甘い考えで経営ができるか!
メディアにノキオスタイルを取り上げていただくこともありましたが、記事を読んだ経営者の大先輩から「そんな甘い考えで経営ができるか!」と叱られることもありました。
また、ノキオスタイルを表層的に捉え、ある種の憧れを持って入社してくる人もいましたが、長続きしないことがほとんど。
何度、ノキオスタイルの旗を下ろそうと考えたことでしょう。
他の会社と同じように、決まった時間に決まった服装で出社して、決まった仕事をやるほうが統率もしやすいはずです。
社内でも意見が割れました。「最初から上手くいくわけない。時間をかけて成長していけばいい」と言う社員もいれば、「現実問題として組織が危ういじゃないか」と反論する社員もいました。
それでもノキオスタイルを捨てなかったのは、サラリーマン時代に自分が感じた息苦しさがあったからです。

自らの保身や管理のしやすさから方針を変えると言うことは、自分が辟易した働き方——時間や場所に縛られ、上位下達で指示されるばかりの日々を、他の社員に押しつけることになります。
もちろん、それでパフォーマンスを発揮できるなら文句はありません。しかし、そのような環境下で働いていた時代に僕が感じたのは「成果を出すためなら自ら考えて動けるのに……。もっと信頼して任せてほしい」というストレスでした。きっと僕と同じような苦しみを抱えている方も少なくないはずです。
背負っているのは僕一人だけの信念ではないと考え、衝突やトラブルに向き合いながらノキオスタイルを続けていきました。
すると徐々にですが、歯車がかみ合い始めました。
たとえば、家庭の事情で時短勤務をされていた女性が優れたパフォーマンスを発揮したり、新たなビジネスにつながるヒントが見つかったりするようなことが、たびたび起こるようになりました。
また、地元の方々から好意的なリアクションをいただくこともありました。同じような意識や課題を持っている地域の経営者の方が、当社の取り組みに興味を持ってくださったんです。
当時ではまだ、女性活躍やワークスタイルの改善に取り組んでいたり、Slackのようなクラウドツールで情報を社内で共有している会社は珍しかったからでしょう。
こうしたマネジメントやワークスタイルをきっかけに、未来の働き方や組織のあり方について、積極的に意見を交わせる地域の経営者仲間が増えていきました。
そのような共感の声や地域の仲間の存在も、ノキオスタイルを続けられた理由だと思います。
地域でビジネスをすることもミッション
大企業のお客さまを中心に、人材育成・組織開発事業が軌道に乗り始めたこともあり、「首都圏にある企業に的を絞ってもいいのでは?」という声を聞くこともあります。
ビジネスとして成功するのであれば、浜松を離れ、東京にオフィスを構えた方が効率が良いことは間違いありません。ですが、地域への想いがあるからこそ、その判断には至りませんでした。
地域でビジネスをすることは、いわば僕にとってのミッションだと考えています。
浜松で働き始める前、ある夏休みに地元をブラブラしていたら、ふいに感じたんです。海や山などの自然や懐かしい景色の心地よさを。東京には資本が溢れ、移動にも買い物にもまったく不便がありませんが、地元でしか感じられない空気がたしかにありました。
そして、地域でつながった顔の見える仲間に対する想い。あそこにAさんがいる、あそこにBさんがいる……みたいに、リアルな人が見えていることが地域でビジネスをする原動力になっていると感じます。
ともに学ぶ「金ガレ」

NOKIOOの創業間もない頃は業績も上がらないし、組織の運営もうまくいかない。内部から反発もあったりして、前進している実感の持てない苦しい時期でした。
あるとき、組織の中しか見ていないことに原因があるのではないかと考え、社外に学びに出るようになりました。
経営やビジネス全般を学ぶスクールに通ったり、スタートアップコミュニティの先輩経営者から話を聞くなどし、そこから得た知識を経営に取り入れてみました。すると、徐々に組織が健全化されていったんです。
越境学習の強みは、自分の中にはない意見を聞けるところにあります。多様な意見が交差することで、意識の底に沈殿していた暗黙知がかき混ぜられ、顕在化することが多々あります。
私たちは無意識のうちに、自らの価値観のレンズを通して物事を見ています。とくに、同じような価値観を持つ人々が集まる組織では、その視野がどうしても狭くなってしまいます。
しかし、越境学習を通じて異なる視点を取り入れることで、思考がステップアップし、より広い視野を持つチャンスが生まれます。このような経験が、組織や個人にとって革新的な変化を引き起こすのです。
育休スクラや人材育成事業も、外での学びがなければ生まれなかったと思います。そんな自分自身の変化体験があるので、社外での学びや越境学習の場づくりに力を入れています。
たとえば2023年から、地域の若手リーダーが集まって学ぶ越境型の「次世代リーダー育成プログラム」を始めました。今では総勢50社、150名ほどの受講生がいます。
そして「より気軽に参加できる場を」という観点から、株式会社Wewillと一緒に始めたのが「金ガレ」です。
金ガレは、定められたテーマについて参加者が意見を出し合うことで、ともに学んでいくことを目的としています。こちらも「自分たちの組織に足りないものを発見できる」と非常に好評です。浜松から始まった金ガレも、現在は静岡市や三島市など、浜松より東の方にまで開催エリアを広げています。
働き方や経営に課題意識を持っている方がいらっしゃいましたら、ともに学んでいきましょう。参加お待ちしています。
▼金ガレについてはこちらから

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