2023.10.18
心理的安全性AWARD二年連続受賞! 職場の人間関係を良好にする取り組み | 静岡鉄道株式会社連続インタビュー〈プロジェクトチーム編〉
Google社が発表してから注目されている「心理的安全性」。
静岡鉄道株式会社(通称:静鉄・しずてつ)は、心理的安全性に関する取り組みが評価され、「心理的安全性AWARD」を二年連続で受賞しました。静岡県、および鉄道業界で唯一の受賞です(※2023年現在)。
同社は取り組みを始めた当時、コロナ禍の閉塞感に苛まれており、社内の人間関係や社員の定着などに課題を感じていました。
そこで、社内の課題を解決するため社員全員で取り組み始めたのが「みんなの100日プロジェクト(通称:100プロ)」であり、心理的安全性AWARDを受賞したチームも、ここから生まれたと言います。
「心理的安全性」とはどのような考え方なのでしょうか?
プロジェクトによってどのような効果が出てきたのでしょうか?
プロジェクトチームのみなさんに伺いました。
心理的安全性を高めるための施策とは?
——最初に「心理的安全性」 について教えてください。
住吉さん:
「心理的安全性」とは簡単にいうと、地位や経験に関わらず、誰もが率直に意見を言い合える状態のことです。
以前、従業員アンケートを取ったところ、「上司に声がかけづらい」や「社員間のコミュニケーションが不足していている」といった意見が多数見られました。そこで、率直な意見を言い合える環境をつくるとともに、社員のパフォーマンスを向上させる目的で始まったのが心理的安全性の向上プロジェクトです。
——具体的なアクションとして、どのようなものがありますか?
福村さん:
分かりやすい例としては主に、「しずてつ仲間図鑑」と「しずてつランチセッション」等が挙げられます。
「しずてつ仲間図鑑」とは、社内のグループウェアで社員のプロフィールをお互いに検索・閲覧できるしくみです。
心理的安全性を高めるための最初のステップとして、一緒に働いている仲間たちのことを知るのが大切だと考えました。そこでこの仲間図鑑にみんなに担当業務、経歴、趣味や夢などを書き込んでもらうことで、コミュニケーションの向上を目指しました。
次に「しずてつランチセッション」とは、お昼休みに社員がトークする生配信イベントです。各部の部長にお願いして、その部署がどんな仕事をしているかを語ってもらったりしています。
若い社員からすると、部長というのはどうしても近寄り難い存在ですし、それが他部署となると、まず関わる機会がない。しかし、部署の様子や部長の人となりを知ることで、部署をまたいだ交流が生まれることを狙いました。
他にも小さなものまで入れると、100プロ全体としては10以上の施策に取り組んでいます。
退職率が激減!
——プロジェクトを始める前と後でどのようなことが変わりましたか?
渡慶次さん:
それまで社内の課題として、鉄道を支える現場の方々の離職率の高さがありました。とくに若い方がすぐに辞めてしまっていて……。しかし、プロジェクトを始めてから離職率がグッと減りました。
具体的には、21年度から22年度にかけて離職者数が90%減少しました。もちろんすべてが100プロのおかげというわけではなく、鉄道部自体の様々な取組との相乗効果だと思います。
河村さん:
社内の雰囲気の部分では、仲間図鑑やランチセッションで社員の人柄が知れるようになり、社員間の距離が縮まったように思います。
お堅いと思っていた部長が意外と柔和で前より気負わずに話しかけられるようになったり、仲間図鑑をきっかけに他部署の人が話しかけてくれたこともあります。
渡慶次さん:
最近はランチセッションで、出向をされていた方々にも経験を語ってもらっています。すると時々、「出向前より会社の雰囲気が良くなった」と言ってもらえることがあるんです。
出向は戻ってくるまでに2年くらいかかるので、ちょうど100プロ前後の会社の様子、ビフォーアフターを比べて見てもらえます。
私たちはずっと渦中にいるので変化に気づきにくいのですが、ちょっと引いた目で見てくれる人の口からそう言ってもらえると「変わってきているんだな」って。やっと実感できました。
福村さん:
私個人の変化ですと、ディスカッションへの意識が変わったと感じています。プロジェクトメンバー同士で関係性がつくられているので、気負わずに発言できるんです。
どんな些細なアイデアでもとりあえず口に出してみる。すると周囲の人たちが優しく拾ってくれる。そういう経験を重ねることで、打ち合わせやディスカッションにも前傾姿勢で挑めるようになりました。
100プロだけでなく、会社全体でこんな雰囲気をさらにつくっていけたらと思っています。
会社の仲間のことをもっと知りたい
——みなさんがこのプロジェクトに参加しようと思ったきっかけを教えてください。
渡慶次さん:
私は以前、鉄道部の駅員として現場で働いていました。現場の社員と本社の社員では、立場も労働環境も違って、お互いに率直に意見を言い合えない雰囲気がありました。このような関係が、少しでも改善されればいいなと思ってプロジェクトへの参加を決めました。
河村さん:
私が参加を決めた理由も渡慶次さんと似ています。
弊社には「出向」という、グループ会社や外部の協力企業に出向いて経験を積む制度があります。私は出向で静鉄タクシーというところに勤務していましたが、その後、静岡鉄道総務部に配属されて、本社勤務となりました。
すると先輩の名前と顔が一致しないし、業務で関わる方々のことも当然わからない。同じ会社で働いているのに、知らない人がたくさんいるとあらためて気づき、モヤモヤしました。社員たちのことをもっと気軽に知れればいいな、と。
そんな時、心理的安全性というプロジェクトがあることを知り、住吉さんの後押しもあって、参加を決めました。
福村さん:
私がプロジェクトに関わろうと思った理由は、“変化の兆し”を感じたからです。
会社の社長が川井に交代したとともに、人事部と労働組合とで協働で刷新した人事施策のコンセプトが打ち出されたことで、これから会社が大きく変化していくのではないか……と。そしてその中で、自分も何か貢献できるかもしれないと考えました。
鈴木さん:
私は今日が初参加です。というか、先ほどチームに新たに加わったばかりです。(編集部注釈:2023年9月より新メンバーとして加入)
参加の直接のきっかけは渡慶次さんに声をかけてもらったことですが、私も以前働いていた職場で、本社の社員との間に雰囲気の違いを感じていました。もしこの心理的安全性を広められれば、もっと居心地がよくなるのではないかと思い、参加を決めました。
渡慶次さん:
鈴木さんは、「こんなことやっているんだけど、どう?」と誘ったところ二つ返事で入ってくれたんです。
福村さん:
今後の活躍に期待しています(笑)
——みなさん、とても仲が良さそうですね。お話を聞いているのが楽しいです。
住吉さん:
ありがとうございます。本当に、みんな仲がいいです。
100プロは、通常の業務のように、迷ったとしても上のポジションの人が最終決定をしてくれません。何をするか、どこを目指すかを決める権限はすべてのメンバーが負っており、みんなが納得しないと先に進めない難しさもあります。
建設的な話し合いをするためにも、フラットで仲の良い関係は大切な要素だと思います。
ボトムアップと上層部の理解
——100プロの良いと思うところを教えてください。
渡慶次さん:
私が思う良さは「チャレンジできること」です。みなさん、どんな意見も暖かく聞いてくれますし、もしみんなが「いいね!」となれば、そのまま施策になって会社に広まっていきます。上から指示されるのではなく、ボトムアップだからこそできることです。
このように、若いうちから自分の発言やアイデアが形になる経験ができるところも素敵だと思っています。
——みなさん頷いていますね。
河村さん:
渡慶次さんがボトムアップという言葉を使っていましたが、ボトムアップという軸がありつつも、人事部を始め、上層部が全面的に理解を示してくれているのが心強いです。
社長も応援団長という形で私たちの活動を後押ししてくれるので、挑戦へのハードルが低くなっているのだと思います。
福村さん:
自ら手を挙げた有志たちが部署や役職を越えて、同じ目標に向かって協力し合う部分にも、やりがいと面白みを感じます。
プロジェクトが上手くいったポイントは?
——プロジェクトはどのようにスタートしましたか? 参考にした事例などありましたら教えてください。
福村さん:
プロジェクトは『心理的安全性のつくりかた』という本を参考に進めています。その本をみんなで読み込んで、紹介されている事例を身近な出来事に当てはめるところから始めました。
「自分たちの会社の現状ってどうなんだろう?」ということを腹を割って話し合って、「こうなったらいいよね」と理想を言い合う、と。目の前の課題を解決するのも大事なんですけど、ゴールを共有することも大切だと思います。
渡慶次さん:
ゴールを共有するためにも、まずはチームメンバーの人となりを知ることが欠かせないと思います。
たとえば、プロジェクトの一番最初の打ち合わせは90分ありましたが、そのほとんどを、お互いのことを知り合うためのアイスブレイクやチームビルディングに使いました。
——関係性を築き、発言しやすくする工夫ですね。
渡慶次さん:
社内でも本社勤務、現場勤務、忙しい部署、余裕のある部署など、いろんな立場のいろんな社員がいます。そうなると当然、人によってはできること・できないことがでてきます。
でも、そういった立場の違いを認め合うことも必要だと思っています。
——お互いを知ることで、ビジョンもより明確になるということですね。他にどのような工夫がありますか?
福村さん:
関わり方を増やすことも意識しています。
たとえば100プロでは、プロジェクトへの関わり度合いがグラデーションになっています。関わり方は3段階あって、それぞれを挙手・握手・拍手と呼んでいます。
挙手はリーダーとなって施策を推進してくれる人、握手は一緒に施策を進めるメンバー、拍手はプロジェクトに共感してくれる応援者という形です。挙手してガッツリ関わるのは難しそうだけど、拍手くらいなら……みたいな余白をつくることで、周囲に理解してもらいやすくなると考えました。
住吉さん:
私たちは〈伸びしろ〉と〈関わりしろ〉の設計を大切にしています。
上司に命令されてやるのではなく、自ら会社の〈伸びしろ〉に気づくこと。そして伸びしろに気づいた人が行動したくなった時に、ちゃんと関われる余白、〈関わりしろ〉が明らかであること。この二つは有志のプロジェクトを行う上でとくに意識しています。
心理的安全性AWARDを二年連続で受賞
住吉さん:
私たちの取り組みは、心理的安全性向上に取り組む企業に送られる「心理的安全性AWARD2022」でシルバーリングを受賞、さらに取り組みをブラッシュアップし、翌年の「心理的安全性AWARD2023」では最高位のプラチナリングをいただきました。
静岡県内で唯一、そして鉄道業界で唯一の受賞です。
非常に光栄なことですが、まだまだ道半ばです。
今後も継続して社内の心理的安全性を高め、誰もが意見を言いやすく、挑戦できる土壌づくりに取り組んでいきたいと思います。
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