2023.11.01
「静岡の会社で働けてよかった」と思ってもらいたい | 静岡鉄道株式会社連続インタビュー〈人事部編〉
コロナ禍の閉塞感に苛まれ、社内の人間関係や社員の定着などに課題を感じていた静岡鉄道株式会社(通称:静鉄・しずてつ)。
そこで社員一丸となって課題解決のために取り組み始めたのが「みんなの100日プロジェクト(通称:100プロ)」であり、その土台になった考え方が「心理的安全性」でした。
結果として、静鉄の取り組みは「心理的安全性AWARD」を2年連続で受賞。静岡県、および鉄道業界で唯一の受賞です(※2023年現在)。
今回は取り組みに秘められた想いを、火付け役のお二人に伺いました。
心理的安全性をキーワードにしたきっかけは?
——「心理的安全性」というキーワードにはいつから注目していたのですか?
杉澤さん:
心理的安全性の向上に取り組まなければいけないと考えた背景には、コロナ禍による組織の疲弊がありました。
弊社は鉄道やホテルといった事業を行っているため、コロナ禍で移動が制限されたことで経営的に厳しい状況に置かれていました。会社の先行きに不安を感じる社員も少なからずいたことでしょう。
また、どこの企業も同じかもしれませんが、弊社では当時、退職率に課題を感じていました。
社員の気持ちを前向きにし、ずっと働き続けたいと思える会社にするために何ができるだろうか? リモートワークやフレックスタイム制といった、制度や仕組みを変えるだけでは足りない。
もっと会社の“空気感”を変えるような、基礎を支える考え方が必要だ……と、悩んでいた時に出会ったのが『心理的安全性のつくりかた』という本でした。
住吉に「こんな本があるんだけど」と話してみたら、彼も彼で「あ、それなら持っています!」と(笑)。共通の認識があったことで、みるみる構想が出来上がっていきました。
住吉さん:
取り組みの初めに行った社内アンケートでも杉澤の言っていたような意見が上がっていました。たとえば、「挑戦しやすい雰囲気になればいいな」とか「もっとお互いに助け合えないか」みたいなことですね。
そういった意味でも、会社の考える課題と社員たちの想いがマッチしていたからこそ、スムーズに事を運べたのではないでしょうか。
基盤になっているのは、やはり「話しやすさ」です。
話しやすくて、誰でも意見を率直に言えるからこそ、挑戦も助け合いもしやすくなり、みんな一緒になって方針を決めていけるようになったのではないでしょうか。
——話しやすいからアイデアが出て、スピード感があるからすぐに形になって、自分のアイデアが形になったからモチベーションにも繋がって……と。いい循環が生まれたんですね。
住吉さん:
まさにおっしゃるとおりです。心理的安全性はあくまでも土台です。意見の出やすさやスピード感は、その先にある「生産性の向上」に繋がっていくと考えています。
——心理的安全性AWARD受賞をどのようにお考えですか?
杉澤さん:
2022年のシルバーリング受賞でいいますと、取り組みの進捗としてもまだまだなところも多く、「でも、やるだけやってみようか!」と思って応募しました。
なので、表彰されて素直に驚きましたが、自分たちの取り組みが客観的に評価されたことはモチベーションアップに繋がりました。
さらに翌年のプラチナリング受賞においては、評価された理由は心理的安全性の取り組みだけでなく、処遇改善や退職者が減ったということも含まれているのではないかと思います。
2年連続の受賞は、取り組みの方向性の正しさを確信に変えてくれました。
住吉さん:
弊社のような、ローカルで“お堅い”と思われがちな老舗企業・レガシー企業が表彰されたという点が大きいと考えています。
「老舗企業の静鉄にできたのだからうちにもできるはずだ!」と思っていただければ幸いです。
出向から戻ったら違う会社になっていた
——どのようなところにプロジェクトの効果を感じますか?
杉澤さん:
意思決定がトップダウンからボトムアップになってきているところです。
どこの企業でも同じだと思うのですが、弊社もこれまではトップダウンの傾向が強く、上司が最終決定権を持っていることが多くありました。
もちろんトップダウンも必要な部分はありますが、部下も意見を言いやすくなり、社内の風通しもだいぶよくなったと感じます。
数値的な面でも、毎年一回行っている従業員満足度調査で改善の兆候が見られます。
とくに私が嬉しかったのは、二年の出向から戻ってきた社員の言葉です。彼が「戻ってきたら違う会社になってた」と言ってくれました。
——その方はどのような点で“違う会社”を感じたのでしょうか。
杉澤さん:
とくに変わったと言っていたのは「スピード感」です。
もともと弊社は、石橋を叩いて渡るような慎重な会社でした。部署内で課題が上がると、それを解決するために三つくらいの部署の課長が集まって、各々議題を持ち帰って検討して……みたいな。
もちろん、慎重なのは長所でもあるのですが、一方で、どうしても歩みが遅くなってしまいます。
それが今では、「プレイヤーをガッと集めて一気に話してしまえば早いよね」と考えられるようになりました。アイデアが形になるまでの期間が大きく短縮されましたね。
それをある社員は「ベンチャーのIT企業みたいなスピード感ですね」と言っていました。ちょうどその時Tシャツ姿だったので、より“ベンチャーっぽさ”が出ていたかもしれません(笑)
ここ数年で「とりあえずやってみよう」の精神が人事部だけでなく、会社の隅々まで浸透したようです。
▼Tシャツ出社がOKになるまでのエピソードはこちら▼
ソーシャルグッドカンパニーを目指して | 静岡鉄道株式会社 川井敏行社長インタビュー
“いつの間にか”巻き込まれる
——「とりあえずやってみよう」の精神が浸透した要因はどこにあるとお考えですか?
住吉さん:
上層部の理解を得られていたからできたことですが、情報発信に際して、上からだけでなく下からも、何度も何度も細かく声掛けしたのは効果があったと思います。
それも前にお話させていただいたように、テンプレート的な発信を繰り返すのではなく、手を変え品を変えですね。
▼情報発信の工夫はこちら▼
ボトムアップで組織を改革 | 静岡鉄道株式会社連続インタビュー〈労働組合編〉
また、トップが挑戦への寛容さを担保しつつも、具体的な施策まで出してしまうのでなく、やり方や施策をボトムアップで出すことで、社員たちが能動的に動けたのだと思います。
——情報発信の丁寧さがあったからこそ、みなさんの心に響いたのですね。それ以外に意識した点はありますか?
杉澤さん:
強いて言えば……「巻き込むこと」ですね。
たとえば、わかりやすい例はランチセッション。部長職に自部署の仕事内容を話してもらうのですが、最初はみんなスピーカー役を嫌がります。「何を話していいかわからないし、人前で喋るのは、ちょっと……」って。
でも、そうやってイヤイヤ言っていた人たちも、知らないうちに巻き込まれて当事者にさせられてしまうんです。
住吉さん:
たとえば、ランチセッションでスピーカーを務めた部長陣や社員が、話を聞いた他の社員から感想・フィードバックをもらうわけですね。
すると「部長の人柄を知られてよかった」とか「また聞きたい」といった前向きな意見が多くあって、それを知ったスピーカーは「やってよかった!」と思ってくださる。
で、いつの間にかプロジェクトの味方になってくださる、という形です。
杉澤さん:
あとは「タイミングが良かった」ということもあるかと思います。ランチセッションが始まった当時はコロナ禍真っ只中で、リアルに集まるのが難しい状況にありました。
そこで私たちは、ZOOMを使ったオンラインミーティング形式を導入しました。オンラインミーティングって、それまではあまり普及していませんでしたよね。
だからみんな、目新しさに興味を持ってくれたのではないかと。発信の仕方と新しい技術がたまたま噛み合って、新しいものが受け入れられる土壌ができたのではないかと思います。
——心理的安全性の取り組みを始めようした際の、一番のハードルはどこでしたか?
住吉さん:
心理的安全性という概念を浸透させることです。
人事部内ではすんなり同意が取れました。しかし、それを社内全体に浸透させるには苦戦しました。といいますのも、プロジェクトが始まったのはコロナ禍で出社に制限がかかっていた時期ですから。
リアルなコミュニケーションが取りづらく、聞き馴染みのない言葉に「なんだそれ?」という顔をされることも少なくありませんでした。
そこで、具体的にどのようなメリットがあるかを伝えつつ、管理職の方々を中心に研修をしたり、小さな施策を積み重ねたりして、徐々に浸透させていきました。
杉澤さん:
理解が広まった理由の一つは、弊社の掲げる目標「ウェルビーイング」にあったと思います。
社員の幸福が会社・地域の利益に繋がるウェルビーイングという考え方と、心理的安全性が近しい関係にあったことで、ニュアンスが伝わりやすかったのではないかと考えています。
最後に
——今後のビジョンについてお聞かせください。
杉澤さん:
社長の川井からも「ソーシャルグッドカンパニー」という言葉が出たように、静鉄は社会の課題を解決し、地域の方々に支えられながら成長してきた会社です。これからも地域とともに歩む姿勢は変わりません。
そう考えた時、「心理的安全性」は弊社に限らず、静岡というまち全体を働きやすい環境に変えていくキーワードだと言えるのではないでしょうか。
弊社ではすでに、さまざまな会社さんと共同で研修を行っています。そういった場でも知識や経験を共有し、みなさまに協力していただきつつ浸透させていきたいです。
そして静岡に住んでいる一人でも多くの方に、「静岡の会社で働けてよかった」と思っていただけるようにしたい。また、そういった想いを、これから社会に出ていく学生さんをはじめ、静岡に住む多くの方々に広めていくのも我々の使命だと考えます。
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