2022.05.07

小さな街の挑戦が、世界を動かすかもしれない | 江﨑グループ社長インタビュー

静岡は若者にとってツマラナイ街になっている

そう語るのは、静岡七間町商店街にARTIE(アルティエ)をオープンした、静岡の老舗企業である、江﨑グループの江﨑和明社長。

■ 江崎グループ
株式会社江﨑新聞店静活株式会社株式会社静岡オリコミ

(取材先)株式会社江﨑新聞店【公式ホームページか】
ARTIE正面ガーデンスペース

ARTIEとは、〝アートを中心とした心地よい空間と、ここでしか出来ない新しいアソビが共存する場〟をテーマとし、ボウリング場、ゲームセンター、最新のホログラムシアターを兼ね備えた総合エンターテイメント施設です。

ARTIE【公式ホームページ】

今回、静岡みんなの広報編集部は、江﨑和明社長にARTIEをオープンした経緯やまちづくりに対する考えを伺いました。

県外の大学に行った若者が静岡に帰ってこない理由

江崎グループ江崎和明社長

大きな話で言うと「会社の理念」ってあるよね。江﨑グループでいえば、「エザキのモットー」という経営理念があって、これが会社の軸になっている。

シンプルに言うと「情報文化の担い手として地域社会に奉仕する」が、わが社の存在意義なんだ。情報や文化の分野でこの地域社会にいかに奉仕するか、そのために「どのような戦略」があって、「どのような行動をとるべきか」をつねに考えている。

静岡は「若者の人口流出」が問題視されてるよね。県外の大学に行った若者が帰ってこない理由として、キャリアとか仕事の問題が取り沙汰されている。マーケティングの手法でグループインタビューとかするじゃない。「実際どうなの、静岡は?」って若者に訊くと「つまらない」っていう結論だったんだよ。

つまらない街には人は居つかないよね。私たちの世代なんかは「いい街じゃん」って思うけど、若者にとってはツマラナイ街なんだよ。

静岡がツマラナイ街だから県外に行っちゃう。都会はそうじゃない。いくらでも面白いところがあって、遊びついでにご飯を食べたり、お酒を飲んだりできる。エンターテイメントと飲食は表裏一体。

ところが、静岡には入口のエンターテイメントがない。街の中心に、遊んでから飲む、あるいはご飯を食べてから遊ぶことのできる施設をつくりたかった。そんな想いでできたのがARTIEだよね。ARTIEには「一次会の機能」と「二次会の機能」が集約されてるんだよ。

さらに一歩踏み込んで彼ら、彼女らがファミリーになっても魅力的でなければいけない。だから、ガーデンのスペースにあのフワフワしたところをつくったりしているわけね。

今、インタビューを受けている場所のレストランBoloも気合入れてつくっている。東京のトップデザイナーに協力してもらっていて、椅子なんてひとつひとつ違うデザインでしょ。

ボウリング場併設のダイニングレストランBolo

東京の家具屋を一軒ずつ回っていて、すごくお金がかかっているよ。全部一緒にすればコストが低く抑えられていいんだけど、問題は壊れたらどうするってところ。ひとつずつ違うデザインだとひとつふたつ変えても目立たないと同時に、「建てたからには30年以上はやるぜ」って意気込みもある。

ボウリング場と併設するレストランBolo

席数は88席もあって静岡市内の店舗でもかなり多い。でもさ、コロナの状況がどうなるかわからないときに88席の飲食店を開くなんてありえないよね。外出が自粛されたり営業時間が制限されてる真っ只中だよ。普通はためらうよね。

ARTIE3階にあるボウリング場

なぜそんな大胆なことができるかというと、ボウリングがあるからなんだよ。ボウリングは集客力があって、すぐ近くに飲食できる店舗があれば使ってもらいやすいよね。実際、ボウリング目的のお客様の3割くらいには施設のレストランを使っていただいている。

だから、投げながら飲めるようになっている。ここを中心に飲み食いしながらボウリングをやる、あるいはボウリングをやったノリで、「のどが渇いたな」ってビールを飲む。そういう文化を定着させていきたいというのもあるよね。逆に、飲食店だけでは回らないし、ボウリング場だけだといまいち盛り上がらないよ。 どっちかが欠けてもダメだったわけね。

飲みながらボーリングができる席配置

夜とかエンターテインメントとか、私たちでいうところの「情報文化」は若い人たちが創っていくんだよね。若い人たちにまず注目されたい。そして、その若い人たちが結婚して、子どもができたら今度はファミリーで遊びに来てくれるような施設になるのがARTIEの使命かな。そこを起爆剤に遊びや文化をつくっていくことを目標としている。

会社の理念をARTIEで具体化したかった

会社の理念が書かれている手帳「エザキのモットー手帳」

建物の狙いと会社の理念は「この街とともに」というのがある。

考えてもみてよ。土地や容積率があったら、それらをフルに活用して最大の利益を出すのが資本主義のモデルでしょ。これにある意味で反してる。普通に考えれば、このARTIEのある場所に高層マンションを建てるのが一番合理的だ。でも、私たちは夜中まで若い人たちに声を出して盛り上がってもらいたいわけ。だとすると高層マンションは相性が悪いよね。うるさいって怒られるでしょ(笑)

この七間町っていう場所は、もともと映画館や芝居小屋に支えられて成長してきた土地だから、ちょっとしたイベントが開催されると、ものすごく多くの人が来るんだよ。やっぱり場所の力ってあるんだよね。ということで、こんな建物にしてみた。ふらっとやってきて、夜中まで盛り上がれるエンターテイメントの入り口だよね。「情報文化の担い手として地域社会に奉仕する」という理念をARTIEで具現化したかった。戦略上の話でいえば、若者がちゃんと遊べる場所をつくれば最終的に定住人口が増えるんだよ

あとは街との連携だね。ボウリング場からゲームセンターやホログラムシアターに行くためには、わざわざ施設を出たり入ったりしないといけないつくりになっている。これは街に出てほしかったからなの。一カ所で完結してしまう郊外型施設とは真逆の発想だね。

「街との連携」を考えられた導線と施設のつくり

ここは呉服町や七間町、両替町でふらふらしている人たちがやってくるのを前提につくってある。イベントをやるとワッと人が集まるような施設を建てるポテンシャルは、他の地方都市にはないわけ。みんな郊外のイオンに行っちゃうから。街中をうろうろできるのは静岡市の最大の特徴だよ。

通りに面するゲームセンター。日本で最後についた「SEGA」の看板。

ボウリングのファンからは怒られちゃったけど、ARTIEにはあえて駐車場を設けてないんだよ。マイボールを持っている人からすれば重い荷物持って移動しなくちゃいけない。ただ、街の駐車場を使ってほしかったの。将来的には車で来る街ではなくなるだろうしね。自動運転の技術が発達すれば駐車場の不要な時代が来ると思う。遠くからでも(自動車が)迎えにきてくれるようになるでしょうね。

この施設に車で来て、少し離れたところに停めてもらっても、街をぶらぶらしてほしい。その時に荷物が邪魔にならないように、ロッカーも用意している。とても人気で、ロッカーはあっという間に予約で全部埋まっちゃったんだよね。固定会員が200人くらいできたかな。ここはARTIEの前身である「静活プラザボウル」の時代からボウリング場としての人気が高いから。

小さな街の挑戦が世界を動かす

そういえば、私も想定していないことが起こったんだよね。ボウリングの世界マーケットには大きく分けて二つの会社しかなくて、その一社の役員がコロナ直前に見学に来たんだよ。

世界的な企業の代表からすると、日本みたいに人口が減っている国の、それも、衰退した中心街の復興にボウリングを使うことができれば、欧州でもこのモデルが使えるってことになる。小さな街の挑戦が世界を動かすかもしれないんだよ。

さらに私が期待しているのは、衰退しかかった中心商店街の集客施設としての成功だよね。うまくいけば新たな事例として、日本中の地方都市のロールモデルになれる。だって空き地になって駐車場になる例はあっても、エンターテイメントで立て直した例は少ない。よくあるよね、それぞれの行政が「どうやったらこの街がよくなるんだろう」って、地方都市を見学すること。ARTIEの運営コンテンツやノウハウは横展開できるので、いつかオファーが来るのを楽しみにしているよ(笑)

▼ 後編はこちら

理念や街への想いから導かれる戦略 | 江﨑グループ社長インタビュー

▼若者へのメッセージ

誰かのための己であれ。役に立つ、幸せにできる自分であれ|江﨑グループ代表 江﨑和明社長インタビュー

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