2023.02.15

三保でしか叶えられない夢がある | 海洋文化都市 | beach hotel gosea’s 合志明倫さんインタビュー

昨年8月、複合型カフェレストラン’Ulalena(ウラレナ)のオーナーであり、beach hotel gosea’sを運営する合志明倫さん「三保再生の鍵を握っている」と噂される人物です。

プロウィンドサーファー、東海大学客員准教授、株式会社gosea’s代表取締役など、さまざまな顔を持つ合志さんは、なぜ’Ulalenaを始めようと思ったのでしょう。

また、テレビのインタビューで「資金集めはパッション」と答えた真意を伺いました。

▼前回の記事はこちら▼

三保再生物語〜海に沈む夕日を見ながらお酒を飲める場所がほしい〜 | ’Ulalena(ウラレナ)合志明倫さんインタビュー

やりすぎず、やらなすぎず

三保が新たな開発に入ることを快く思わない方もいらっしゃるかもしれません。「昔の古き良き三保のままでいい」という声も散見されます。

もしかしたら、「なんで行政が合志のビジネスを手伝っているんだ」と不満に思われている方もいるかもしれません。

しかし、美しく住み良い三保を未来に残すためにはボランティアだけでは限界があります。お金が稼げるようにマネタイズしないと、いわゆるサステイナブルな環境はつくれないんです。

僕の中で決まっている事業のテーマは「やりすぎず、やらなさすぎず」です。三保の自然や文化を損なわない範囲で事業を展開し、雇用を生み出すことが住みよい街づくりの第一歩だと思っています。

現在、役所の方々と話し合い、海洋文化都市計画における観光強化や移住の施策を進めています。話し合いを重ねるうちに行政側のパッションも高まりつつあります。

海の家の解体も進みましたし、清掃活動も活発化しています。三保の街はこれから劇的に変わっていくはずです。

ただ、クリアしないといけない課題は山のようにあります。

その一つが法律的問題です。文化財保護、景観保護の法律によって、建物が建てられなくなったり、触れなくなってしまった場所がたくさんあります。

たとえば松林の問題。

間引くものを間引かないと立派な松まで枯れていってしまいますし、どんどん地面に松の葉が溜まっていってしまいます。でも、「これは切っちゃダメ」「あれも触っちゃダメ」「全部ダメ」では綺麗な状態が守れるわけありません。

原生林は放っておいても原生林として豊かな自然を保てますが、一度でも人間が植林をしてしまった森林は、その後も人間が手入れをしてやらなければいけません。

定期的に木を切って、下まで日が通るように手を入れないと土地が腐ってしまうんです。人工林の放置は全国でも問題になっていますよね。
 
そういう意味でも、三保の松林は原生林じゃないんですよ。世界文化遺産といったところで、元々はこんな松があったわけじゃない。人の手によって植えられたんです。すでに原生林とはほど遠く、放っておいたら荒れていくばかりです。

使えなかった、触れられなかった場所を有効利用する方法を、静岡は先陣を切って考えていかなければいけません。

先駆けになれ!

「やれない」をどのように「やれる」にしていくかを考えるのが、これからの静岡を変えていく鍵になるんじゃないかな。県外から「静岡県はよくそれやったよね」って言われるようにしていかなきゃ。

たとえば、今つくっているサウナ(※すでに完成済み)。

本当はオープンと同時にスタートしたかったんだけど、静岡市の条例はすごく厳しくて、なかなか理想の形で許可が降りないんです。市外では認められていることでも、「前例がないから」とか「規則に書かれているからダメです」って言われちゃう。
 
最初から「できない」の一点張りではなく、できない理由を深掘りしていってほしいと思うときがあります。今でこそ行政の方々もとても親身になって話を聞いてくれますが、一旦OKを出して3ヶ月ごとにチェックをするとか、やり方はいろいろあるのではないかと思うこともあります。

 大学の授業の中で、僕が必ず生徒に教えていることがあります。海洋スポーツで一番大切なのは「先駆けになること」だと。

その道の先駆者を目指しなさいって、二番じゃダメなんだって、みんなに言い聞かせています。一番と二番の間には越えられない壁があるんですよ。
 
たとえば、なぜハワイがサーフィンの聖地になれたのかご存じですか?
 
大航海時代、イギリス人の探検家ジェームス・クック船長がハワイに上陸した時、彼らは宗教上の理由で海に入ることを禁止されていました。

しかし、海難救助の訓練という名目でワイキキビーチでの遊泳を許可したんです。その後、ハワイの原住民のものであったサーフィンを自分たちの文化に取り入れました。これが現在のサーフィンやライフセーバーの原点とも言われています。
 
同じように、千葉がサーフィンの聖地と言われているのも、日本で初めて大会が開催されたのが千葉の鴨川海岸だったからです。千葉県の内海は都心から離れていますが、サーフカルチャーがあるおかげで非常に栄えています。

サーフィンに限らず、民間と行政が一緒になって「先駆け」をつくったエリアはどこもすごく盛り上がっていますよ。
 
「前例がないからやれません」に対して「だからこそ、ぜひ一緒に考えてくださいよ!」と僕は声を大にして言いたいです。

偶然とご縁に支えられて

偶然とタイミング、そしてなによりご縁が重なったのが事業を始めようと思った一番の理由です。’UlalenaもBeach hotel gosea’sも、ご縁でできているようなものなんですよ。’Ulalenaも最初は、「ENN(エン)」という名前にしようと思ったくらいです。

ここのシェフともご縁によって繋がりました。

「そろそろ’Ulalenaシェフを決めないとまずいぞ!」とスタッフと話していたちょうど翌日、お世話になっている方から「シェフ探してない?」とお電話をいただきました。

静岡でも有名なフレンチレストラン「ミクニ・シミズ」が3月で閉店し、そこのシェフが新しいお店を探していると言うんです。彼は12年間その道で修行を積んできたので当然引き合いもたくさんあったでしょう。しかし、「おもしろいことをやりたい!」とここを選んでくれました。

今おこなっている事業のほとんどが、ご縁や運によって成り立っていると言っても過言ではありません。僕自身はなにもしてない。自分の考えていることを周囲の方々に話していると、不思議と繋がってしまうんです

なので、前にテレビで取材を受けた時に、「どのようにして資金を集めたんですか?」という問いにも、「パッションです」としか答えられませんでした(笑)

▶︎静岡テレビによる取材の様子はこちら

自分に経営のセンスがあるかどうかはまだよくわかりませんが、こだわりを貫いていくうえで訪れる偶然やご縁、想いの共鳴による後押しを感じずにはいられませんね。

「合志と一緒に三保をよくしていきたい」と声を上げてくれる人も増えてきました。求人を出していないにも関わらず、東海大学の学生さんや近くに住んでいる子たちが、「一緒に新しいことやっていきたいです」って言って集まってきてくれます。

資金調達を手伝ってくれた萩原さんもその一人。彼がいなければここは完成していなかった。
 
彼は元々金融機関に勤めていました。そちらの仕事のほうが給料も高いでしょうし、忙しく走り回ることもなかったでしょう。それでも僕と並走する道を選んでくれた彼には、せめて夢を見させてあげないと。

この仕事の先にはきっと、三保でしか叶えられない夢があるはずです

コロナ禍“だから”始めた事業

僕らが経営しているのは’Ulalenaだけではありません。隣にある「Beach hotel gosea’s」というホテルもそうです。

もともとは「三保シーサイドホテル福田屋」という三保の名物ホテルでしたが、コロナによる観光客減少によって倒産してしまいました。それを静岡の大手企業が引き継ぎ、僕らが借り受けてリフォームしたんです。

 同エリアには修学旅行や教育旅行を多く受け入れていた東海大学の研修施設もありましたが、同じく閉鎖しています。

教育旅行は一度場所を決めると、だいたい10年は行き先や宿泊場所が変わりませんので、福田屋がなくなることはエリアにとって大きな損失になってしまいます。

「なんとしても存続させなければ!」と手を挙げた次第です。

ただ、ホテル業を始めるにあたって、「こんな時期に旅行する人なんていないよ」とか、「修学旅行なんかすぐ来ないから」って、周囲から散々言われました。

しかし逆に考えれば、これよりリスクが上がることがないんですね。コロナ禍による不況もいつかは終わるだろうし、いつまでも続くようだったら、僕が始めようが始めまいが未来は大変なことになっているでしょう。

ならばコロナ禍で時間が余っているうちに準備を始めて、コロナが収束した先の未来に賭けてもいいんじゃないかと思いました。

海へ行くのに目的なんていらない

マリンスポーツに出会ったのは高校3年生の秋でした。近所のおじさんに連れられてウィンドサーフィンを体験し、これを本格的に学びたいと思いました。

そこで進学の候補に上がったのが東海大学でした。ご存知かもしれませんが、東海大学の海洋学部ではマリンスポーツが学べるんです。それからずっと、僕は三保にいます。今年で31年目になりますね。
 
窓の外を見てください。ブルーシートが敷かれているのが見えますか? ちょうど今日も海洋学部の生徒たちが来ています。夏のダイビング実習の授業です。

少し前には僕が生徒を引率して、バリへサーフィンの実習授業をしに行きました。授業が終わった後はビーチで騒ぐんです。最高に楽しい授業になりましたね。
 
「バリのビーチ」といっても、特別美しいビーチというわけではありませんよ。もちろんサーフィンをやるくらいだから波はいいですが、ほかにはなんにもない。日本にだって似たような場所はたくさんあります。

ただ一つ、バリのビーチと日本のビーチに違いがあるとすれば用途です
 
バリのビーチにはクッションが置いてあって、みんなで横になりながらお酒を飲むんです。泳ぐとかサーフィンをするのは二の次で、ゆっくりとくつろぐためにビーチを利用する人が多いんですね。読書する人もいれば、寝転がっているだけの人もたくさんいます。海に入らなくてもいい。
 
日本のビーチというと、何か目的がなくては来ちゃいけない雰囲気がありますよね。「目的なんてなくていいんだよ」って、僕は思います。穏やかな三保の海でゆったりと時間を過ごすなんて、最高の贅沢じゃないですか。

すべてが「ほどよい」三保

景観もそうですが、三保は交通の便も非常に良い。静岡や清水の街からもそれほど離れていませんし、清水駅から海を渡ってくるルートも便利ですね。

東京や名古屋、山梨などからも同じくらいの時間で来られることもあり、三保に船を置きたいと思ってくれるクルーザーオーナーも増えています。

気候にしても環境にしても、本当にほどよい土地。それが三保です。

静岡の暖かさには特別なものがあります。

ちょっと学校の授業的な感じで言うと、日照時間はトップクラス、駿河湾は冬でも水温が14度以下にならない。なので気温が一桁台でも暖かく感じられます。雪が降らないのもこのためです。
 
南西からの風が吹くのでセーリングにも向いていますし、泳ぐ人にとっても波が穏やかで泳ぎやすい。海を使うのであれば富士山側より都合が良い場合も多いんですね。

ただ、ここに住んでいる人たちはたぶん気がついてない。それがもう当たり前になっているのかもしれません。だから「こんな何もないところはイヤだ!」と出て行ってしまう。

たしかに、交通や病院のことを考えると、お年を召された方には住みにくい場所かもしれません。インフラ整備は今後、三保エリアの課題になっていくことでしょう。

僕一人ではどうにもならない

三保のことを一緒に考えてほしいのは、行政のみなさんばかりではありません。三保に住む方々、静岡に住む方々にも一緒に三保の未来を考えてほしいです。

みなさんの力が必要なんです。僕一人ではどうにもなりません。
 
僕も今県とか市とかと一緒にビーチクリーンとかやっていますけど、本当はイベントでおこなう清掃はあまり好きじゃないんです。

地元を綺麗にしたいと思っている方々はイベントにしなくても自分たちで動き出していますし、昔からずっと掃除してくれている人もいます。ただ、イベントがきっかけとなって、三保に興味を持ってくれる人が増えるのであればそれもいいと思っています。
 
僕が何を言おうが言うまいが、「三保をこうしたい!」と思ってくれる人たちが集まってくれればいいですね。

最初は僕個人の小さな願いがスタートでしたが、徐々に同じ志を持った方たちが声を上げ始めていますし、アルバイトをしたいと集まってくれた子たちのように、若い世代を巻き込みつつあります。

いつか若い人たちに全部任せて、ゆっくり三保の夕日を見ながら美味しいお酒とムール貝を楽しみたいものです。

健康なうちにやりたいことはやる

先のことはあまり考えすぎないようにしています。これも、やりすぎずやらなすぎずかな。支払いがあといくら残ってるとか、事業でいくら稼がないと赤字だなとか、考えすぎちゃうと動けなくなっちゃうと思うんです。

「生きていればなんとかなるでしょ」くらいの気持ちで、目の前のことだけに集中して、今は仕事をしています。

もしかしたら明日、交通事故で死んでしまうかもしれないし、重い病気にかかってしまうかもしれません。今までのように元気に動けなくなってしまうかもしれません。

明日のことは誰にもわからないじゃないですか。スポーツをやっている身として、常々感じています。

だからこそ、「生きていればなんとかなるでしょ」の精神で、健康でいられる間にできることは積極的にやっていきたいと思っています。
 
やりたいことをやって、ダメだったらアルバイトしながらまた一からスタートするくらいの感覚で、これからもずっと進んでいくのかもしれませんね。

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運営企業:株式会社LEAPH

 

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