2025.01.30
宇宙日本食開発の夢、静岡から宇宙へ┃一般社団法人チームゆら

目標は宇宙飛行士を幸せにできる宇宙食を作る人になることです。

——満面の笑みで語るのは一般社団法人チームゆらの代表である増田結桜さんです。
結桜さんは静岡の食材を使った宇宙日本食の開発をしている中学生2年生であり、テレビ朝日で放送されている「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」をはじめ、静岡県内外のさまざまなメディアに出演し、自身の宇宙食開発について発信をしています(2024年9月時点)。
現在、結桜さんが取り組んでいるのは温州みかんゼリーによる宇宙日本食への認定です。
この宇宙食開発は技術革新やフードロス削減につながるとされ、SDGsの観点からも注目を浴びています。2024年2月には、結桜さんの理念に賛同したJA静岡経済連から、ゼリーの研究材料としてみかんジュースとみかん1年分が提供されました。
https://www.city.shizuoka.lg.jp/s2934/s009140.html
静岡みんなの広報は、結桜さんの宇宙食にかける情熱や「一般社団法人チームゆら」の立ち上げまでの軌跡を伺いました。さらに結桜さんのお母さまである増田郁理さんと、チームゆらの一員として結桜さんをサポートする一般社団法人草薙カルテッドの小林祐介さんにもお話を伺いました。
一般社団法人チームゆら
https://team-yura.jp
一般社団法人草薙カルテッド
https://kusanagiculted.or.jp/

増田郁理さん(左)と小林祐介さん(右)
静岡の食材を宇宙へ!
今わたしが力を入れているのはみかんゼリーの宇宙食開発です。
ゼリーの材料には静岡のみかんを使っています。静岡のみかんはまだ宇宙に行ったことがないんです。この宇宙食開発を通して、静岡の食材の魅力を全国、全世界に知ってもらいたいと考えています。
そして、その先にある個人的な目標は「宇宙飛行士を幸せにできる宇宙食を作る人」になることです!
宇宙飛行士を癒やす仕事
静岡県のみかんを宇宙に届けたいという想いは強いですが、なにより宇宙食を作っている時間が楽しい。試行錯誤している時間もプロジェクトを進めるうえである出会いも、すべてが楽しいです。
宇宙に興味を持ったのは小学校4年生のときでした。星座や天体に惹かれるようになり、プラネタリウムにもよく行くようになりました。最近は本格的な天体望遠鏡も買ってもらいました。

宇宙について知りたいと思って、本もたくさん読みました。そこで出会ったのが『宇宙のがっこう』という本。このなかで宇宙食開発に携わる須永彩さんという方が「宇宙食開発は宇宙飛行士に元気と笑顔を届ける仕事です」とおっしゃっていました。
緊張を強いられる宇宙での活動で、食事の時間は数少ない安らぎの時間なんです。わたしも宇宙食で宇宙飛行士の方々を癒やしたいと思うようになりました。
わからないことだらけだけど、とりあえず行動してみようと思って、宇宙食に詳しい人に作り方を聞いてみることにしました。そうして取材を申し込んだのが福井県立若狭(わかさ)高校のみなさんです。若狭高校は過去に「若狭宇宙鯖缶」を開発して宇宙日本食認証を受けたことがあったんです。
開発に苦労されたところとか、宇宙食の認定を受けるために必要な条件などを教えてもらって、ますますやる気が出ました。
https://www.chunichi.co.jp/article/424414
最初は静岡名物のおでんで作ってみました。でも、スーパーで市販されているものをベースに使ったので、いまいち”作っている”感触がなくて……。もっと素材を活かした宇宙食をゼロから開発したいと思いました。
これまでに、けんちん汁にも挑戦しました。けんちん汁は若田光一宇宙飛行士の郷土料理だからです。ただ、けんちん汁を静岡産の食材だけで作ると思ったよりお金がかかってしまうので、いろいろと考えて、大好きだったみかんを使ったみかんゼリーの開発を始めました。
苦戦したのは”硬さ”
みかんゼリー開発で苦戦したのは凝固剤の量です。
硬すぎても食感が悪くなってしまうし、柔らかすぎても宇宙空間で飛散してしまいます。飛散したゼリーが機械に入ると故障の原因にもなります。食感もいいけど飛び散らないぐらいの、ちょうどいい硬さに調節するのが大変でした。凝固剤はいろいろ試した結果、海藻から取れる「アガー」を使うことにしました。
こだわりとしては果汁だけではなく、細かくした皮を入れて風味を出しているところです。これはフードロス削減にも役立つと考えています。

味付けもいろいろ工夫しています。たとえば、地上で食べるときと宇宙で食べるときでは味覚が変わってしまうので、その違いも考えながら甘みや酸味を調整しました。
こうしてできたみかんゼリーでしたが、以前、テレビ番組の企画でJAXAの方に審査してもらったときは合格ラインに届きませんでした。パッケージが柔らかすぎたことが主な原因です。また、野口聡一宇宙飛行士からも「ちょっと寒天感が強いかな」とアドバイスをいただきました。
少しガッカリしましたが、改善点を教えていただけたのでやるべきことがはっきりしました。
2026年の月面着陸を目指して
今は2026年までの認証を目指しています。
登録のためにはまず、保存期間の基準をクリアしなければいけません。これに1年半かかります。それを含めて、正式に採用されるまでには3年近くかかってきます。ただ、宇宙飛行士の方々による推薦があれば「プレ宇宙日本食」という形で、一足早く宇宙に持って行っていただけるんです。
そのプレが2026年にあります。今後数年間は日本人宇宙飛行士が宇宙に行く機会が多くなるんです。また、アルテミス計画というアポロ計画以来、二度目の月面着陸のプロジェクトもあって、それも2026年9月を予定しています。日本人宇宙飛行士が参加することも決まっていてすごく熱い!
今後は「美味しそう」と思ってもらえるように味だけでなくパッケージにもこだわりたいです。結局、宇宙飛行士の方々に選んでいただけないと持って行ってもらえませんから。
多くの方々に知っていただき、選んでもらえるきっかけを増やしていきます。
増田郁理さん:申し込みの段階までに決めておかなければいけないこともあって、それが全部揃うまでが大変です。製品化していることも大前提ですが、書類審査と資金集めも課題ですね。
チームゆら発足の経緯
結桜さん:今は「一般社団法人チームゆら」として、社会人の方々や大学生メンバーと一緒に活動しています。
チームゆら立ち上げは2022年10月です。株式会社イシダテックさんが一般社団法人草薙カルテッドの小林さんにつなげてくださったのがきっかけでした。(※一般社団法人草薙カルテッドは、この度取材場所に使わせていただいたコラボレーションスペースTaktを運営している団体です。)
初対面の人も多かったので、最初はみんなぎこちなかったです。でも、チームの活動で顔を合わせるうちに自然と仲良くなっていきました。
チームはみかんゼリー開発をリードするチーム、クラウドファンディングなどで資金を集めるチーム、JAXAや一般社団法人などの書類を作成したりするチーム、情報発信をする広報チームの4つに分かれています。
チームゆらを法人化したのは、ずっとお世話になっている石田缶詰さんよりアドバイスをいただいたからです。情報発信や資金集めにしても個人では限界があります。それに宇宙食の認証をもらうためには法人ではないといけません。株式会社やNPOなど、いろいろと比較検討して一般社団法人を立ち上げることになりました。
増田郁理さん:NPOは設立費用は安いけど、書類作りがたいへんです。報告義務もありますし、理事の人数に決まりがあります。クラウドファンディングをやるとしても利益が出てしまうため、非営利法人での運営は難しいと感じました。
そこでチームのみなさんにメリットデメリットを説明して、その意見を結桜がまとめ、最終的に一般社団法人に決まりました。
法人化にあたっては石田缶詰さんやイシダテックさん、個人的にお世話になっている税理士さんなど、多くの方々にご協力いただきました。関わってくださっている方々が「すごい面白そう」とか「夢がある」と興味を持ってくださり、すごくありがたいですね。チームのみなさんも結桜の動きを尊重してくれます。
結桜さん:ホームページ制作や資金集めもチームメンバーが引っ張ってくれています。チームのみなさんには助けられてばかりです。いつも感謝しています!
小林さん:チームメンバーとして、いつも近くから見ている僕から、結桜さんの魅力をお話ししてもいいですか。
先ほど「感謝」というキーワードが出ましたが、結桜さんを応援したくなる一番の理由は「感謝の気持ちを忘れないところ」だと僕は思っています。結桜さんは、結桜さんに関わるすべての人を大切にしているんです。この姿勢は僕も見習っていきたいですね。
手紙がつないだ縁
結桜さん:製造委託は宮城県多賀城市に工場がある株式会社ワンテーブルさんにお願いしました。ワンテーブルさんはもともと防災備蓄食を作っている会社さんで、宇宙日本食の認証経験もあります。
ワンテーブル 公式サイト https://onetable.jp/
石田缶詰さんからご紹介いただいて、ワンテーブルさんに手紙を出したことからご縁ができました。
手紙には宇宙食開発をしていること、パッケージで悩んでいること、OEM(製造委託)をしてくださる会社さんを探していることなどを書いたんです。すると「ぜひお話を聞かせてください」とお返事をいただいたので今年の3月にお話をし、7月に製造委託が決まりました。

ワンテーブルさんからも、どのような商品を作っていているかお話を聞かせてもらいました。ワンテーブルさんが防災備蓄食を作り始めたのは東日本大震災がきっかけだったそうです。
避難所での食事で困るのが水です。乾パンのような乾燥した食事が多く、被災者の方々の喉が渇いてしまうということでした。また食べ物を選んでもいられないので、たとえアレルギーがある食品でも無理して食べるしかありません。
そのような現場を経験したことから、水分を多く含み、アレルギーを気にせず食べられる製品を作りたいという想いから事業がスタートしたとのことです。すごい素敵な会社さんだと思いました。
増田郁理さん:結桜の作っているみかんゼリーも宇宙食としてだけではなく、防災備蓄食や登山食のように身近な食事になってほしいと願っています。
結桜さんが変わった瞬間
チームのみんなにはいつも助けられています。真剣に話を聞いてもらえるのもすごく嬉しいです。チームのみなさんだけでなく、本当に多くの方々に支えていただいています。
これまで夢を話せるのは家族や友達くらいでした。それもごく一部で、自分の思っていることをストレートに伝える場面はほとんどありませんでした。こうやって自分の想いを伝えて、いろんな方が興味を持ってくださるのはすごく嬉しいです。

もともと考えていることを口に出す性格ではありませんでした。授業で発言するのも苦手でしたし、どちらかといえば周りの人に流されるような小学生だったと思います。
変わったのは探究学舎に出るようになってからかな。
探究学舎というのは、わたしが所属している塾です。宇宙との出会いも探究学舎がきっかけでしたし、宇宙食を作り始めたのも探究学舎のメンターさんの一言があったからです。
宇宙食開発で何から手を付けていいのかわからなかったときに、「宇宙食が好きなら作ってみればいいじゃん!」と言ってくれたんです。わたしも「たしかに!」と思って(笑)
そこからすべてが始まりました。
増田郁理さん:探究学舎に出るようになってすごく外交的になりましたね。
探究学舎では子どもの探究心を伸ばすような講座をしているんです。名古屋でやっていた出張授業に参加したことをきっかけに、オンラインで静岡から受講するようになりました。そこからですね、結桜が変わったのは。
人前でどんどん発言するようになりましたし、学校でも学級委員長に立候補したりして、積極的に行動するようになったと思います。
結桜さん:以前、探究学舎の仲間に広報して、オンライン天体観測会を企画したことがあります。すると、100人ぐらいの人が集まってくれたんです。そういう成功体験をちょっとずつ重ねることで、自分の考えを発信してもいいんだなと思うようになれました。今では学級委員などに自分から手を上げることが多くなりました。
とりあえずやってみる
わたしが大切にしているのは「やる・やらないじゃなくて、やってみてからその後のことを考える」という姿勢です。
とりあえずやってみて、問題が起きたらそこで諦めるでもいいし、問題を解決して次のステップに進んでもいいんです。やってみないと学べないことがたくさんあります。わたしも体験を通して実感しました。
この宇宙食の開発のプロジェクトもメンターさんの何気ない一言で始まりました。「とりあえずやってみるか!」ということから始まって、すでに3年ぐらい続いています。

思い返せば開発に試行錯誤したり、会社さんにプレゼンテーションしたり、いろいろありましたね。
もちろん最初から上手くできたわけではありません。失敗もたくさんしました。でも、失敗したらそのときに失敗を乗り越える方法を考えればいいだけです。ワンテーブルさんに手紙を書いたときも「返事がなかったら別の方法を考えればいい」と気楽に考えていました。
あのとき試作品を作らなければチームゆらのメンバーとも出会えなかったし、これほど多くの方々に応援していただくこともなかったと思います。
思いつくことはどんどん行動してみて、あとは自分を信じるだけです。
増田郁理さん:まだまだパッケージの制作や資金調達など課題は絶えません。結桜の想いに共感してくださる方や知識や技術をお持ちの方、ご協力お願いいたします。
新たなクラウドファンディング開始
小林さん:資金集めに関して、クラウドファンディングチームの僕からお話しさせてください。
クラウドファンディングの目標は500万円です。現時点でその3分の1くらい集まっています。
(2024年9月時点)
これまではSyncable(シンカブル)という 非営利団体に特化したクラウドファンディングを利用していましたが、2025年1月からCAMPFIREも使って資金集めを加速させていきます。
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ページはこちら
https://x.gd/team_yura
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※2月4日時点で72%達成しています!!
チームゆらが一般社団法人化して1周年になるので、それを記念してスタートさせる予定です。秋になれば学生たちのスケジュールも落ち着いてくるので、良いスタートダッシュを切れるのではないでしょうか。
今はみんなでリターン品を考えているところです。すでに十数パターン考えました。
金額の大きいリターン品として、「チームゆらと行く静岡散策ツアー」も考えています。結桜さんをはじめ、チームゆらのメンバーと話したい方も多いんじゃないでしょうか。
これを機に、ぜひ静岡を知ってもらいたいです。みかんゼリーには静岡のみかんを使っているので、みかん狩りとかもいいかな。ご希望とあらばオプションで小林も同行を…(笑)
ほかにもオンライン講演会やチームゆらのステッカー、ZOOMの背景壁紙、毎月配信している「月間チームゆら」の配信なんかも検討しています。(2024年9月時点)
[後日リターンについてメッセージいただきました!]
結桜さん:リターン品や応援メッセージは宇宙や静岡に関わる様々な方々にご協力いただきました。
元JAXA宇宙日本食チームの方と私の子ども向け講演会など貴重なリターン品が沢山あります。
ぜひご支援よろしくお願いします。
防災備蓄食にも!
増田郁理さん:クラウドファンディングにご協力いただいた方々には積極的にお礼をしていこうと思っています。
保存期間も長いので「すぐに食べないよ」という方にもおすすめです。消費期限は年々伸びているので、先ほども少し触れたように防災備蓄食にもいいのではないでしょうか。
何かあったときの非常食ももちろん大切ですが、それが宇宙飛行士の方々も食べている宇宙食と同じで、しかも静岡の食材を使っていると思うと、ちょっとロマンチックじゃないですか。
結桜さんからのメッセージ
わたしはこの活動を通して、多くの方々に静岡の食材の素晴らしさを知ってほしいと思っています。そして、宇宙食開発に興味を持ってくれる人を一人でも増やせたら嬉しいです。
クラウドファンディングへのご協力、よろしくお願いします!

~オフショット~

取材中、緊張した様子だったゆらさん。最後に2ショット撮影をお願いしたところ、等身大の笑顔が炸裂しました…!!
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