2023.02.08

三保再生物語〜海に沈む夕日を見ながらお酒を飲める場所がほしい〜 | ’Ulalena(ウラレナ)合志明倫さんインタビュー

昨年8月、複合型カフェレストラン’Ulalena(ウラレナ)が三保にオープンしました。

オーナーはプロウィンドサーファー、東海大学客員准教授、株式会社gosea’s代表取締役などさまざまな顔を持ち、周囲からは「三保再生の鍵を握っている」と噂される合志明倫さんです

小さな願いから始まった合志さんの活動は、今や行政をも巻き込み一大プロジェクトとなりつつあります

合志さんはなぜ三保再生を志すようになったのでしょうか。また、三保再生の鍵はどこにあるのでしょうか。

静岡市三保のリゾート施設’Ulalena(ウラレナ)

静岡市三保の「ウラレナ」

僕はウィンドサーファーとして世界を転々としていた頃、ハワイのマウイ島に練習のためによく通っていました。

マウイ島にある標高3000mほどの山ハレアカラ。その中腹に降る雨に夕日が当たると、赤や黄色の混ざったオレンジ色に光り輝くんです。

その光景をハワイ語で「’Ulalena(ウラレナ)」と呼びます。

三保に沈む夕日もハワイに引けを取らないくらい美しいんだ——そんな思いからお店にこの名前を付けました。

三保の海に沈む夕日

三保の自然が持つポテンシャルはすごいですよ。

海に囲まれているため、夏でも風通しがよくて過ごしやすいですし、冬になればワーっと宇宙空間にいるような星空が広がります。

三保の先端は自然を生かしたエリアが残っていて、きれいな空気の中でリラックスする時間を取れます。タヌキだっていますよ。さっきも三匹くらい歩いていました(笑)
 
そういうリアルな心地よさがある三保で僕が思ったことは、「海に沈む夕日を見ながらお酒を飲める場所がほしい」でした。

美味しいお酒があって、生牡蠣やムール貝があって、美しい景色があれば最高じゃないですか。でも、そんなちょっとした幸せを感じられる海が日本にはあまりないんですね。

そう思っているのは僕だけじゃなくて、「そんな場所があったらいいよね」とみんなも言ってくれる。ただ、言うには言うけれど、誰も動こうとしない。

だから、「自分がやるしかない!」と思ったんです。

小さな願いが大きなプロジェクトへ

しかしながら、三保のエリアは長い間放置されて元気を失っていました。

シャッターの下りたお店に、ぼろぼろの海の家。管理のいき届いていない松の木。せっかく大学が近くにあるのに、学生たちは静岡の街中へ遊びに行ってしまいます。

ゆっくり休む前に、三保を元気にする必要があるんじゃないか?

そんなことを思っていたある日、アテンドで乗船させてもらっていた船舶で静岡県知事の川勝平太さんとお話しする機会をいただきました。

そこで思いの丈をぶつけたところ、「ぜひ県の職員にあなたの熱い想いを伝えてください」とお願いされました。

そのような経緯で、年度末の職員行事でスピーチをさせていただきました。僕の前には経済学者や芥川賞作家のような、すごい業績を残された方々がスピーチをされていたんです。

僕なんかが立つには場違いな気もしましたが、「やるしかない!」と腹を括りました。

スピーチでは「海洋スポーツから清水港振興を考える」と題して、目の前にあるリアルな現状やマリンスポーツの持つ可能性についてお話しさせていただきました。

JWA2022プロツアー奄美大島の様子(中央の黒いセイルが合志さん)

静岡は少し富士山に頼りすぎているんじゃないかと、僕は思っています。

富士山は富士山で、もちろん美しいですけど、もっと身近にあるアドバンテージを見てあげないと。ここには美しい夕陽があり、平穏な内海があり、人々の住みやすい気候・海象があります。
 
三保の松原から御穂神社に続く「神の道」のように、陸側の玄関はたしかに整備が進んでいます。しかし、海からの玄関のことも忘れないでくださいね——そんなことを県庁でお話しさせていただきました。

スピーチが功を奏したのか、港湾空間利用の基本的な方向性を決める清水港長期構想に「三保地区は国内外から人が集まるマリンスポーツ拠点を目指す」という文言を入れていただけることとなりました。

海に沈む夕日を見ながらお酒を飲める場所がほしい。

そんな、ささやかで個人的な願いは、いつしか静岡全体を巻き込んだ大きなプロジェクトへと発展していきました。

唯一無二のビーチ

蒲原、用宗、久能なんかでも地元を盛り上げる事業が進んでいますよね。

以前、静岡みんなの広報さんでも取材されていたスルガノホールディングス栗山社長の勢いはすごいです。「まちをよくしたい!」という想いがみなぎっています。

これから蒲原、一気に変わるから | スルガノホールディングス株式会社栗山勝訓社長インタビュー

ポテンシャルって言葉がネガティブですよ | スルガノホールディングス株式会社栗山勝訓社長インタビュー

やっぱり「地元と一緒にやっていきたい」ってところがミソですね。

それがないといくら頑張ったところで地元民は活動に関心を持たないし、本人も「せっかくやったのに反応がよくなかったな。もうやめよう……」って思っちゃう。だからやっぱり、周りにいる人々の支えがあってこその大躍進だと思うんです。

蒲原は街も人もいいし、なにより栗山社長がいい。

用宗だっていろんな業者さんが頑張って整備されていますよね。人宿町や丸子を盛り上げている創造舎の山梨社長にもパワーをもらっています。

ただ、ビーチという観点では三保がナンバーワンだと思っていますよ。なぜなら、三保には堤防がないからです。
 
海には堤防と道路がつきものです。海岸沿いは県道国道がずっと走っているじゃないですか。そうなると海に出るには横断歩道を渡らないといけないし、電線も増えてしまいます。

ただ僕は、ビーチにこの二つはないほうがいいと思っています。

陸と海が道路などの遮蔽物なく連続しているのが理想です。三保は文化財保護の法律で守られていることもあり、道路や電柱の新設が厳しく制限されています。

また、三保は大きな船が入ってくる第一級港湾でありながら、天然のビーチがある珍しい場所です。大きな船が出入りするいわゆる港湾は、どこも岸壁になっていてビーチがないですよね。

カヌーやサーフィンをやっている人々の背後に大型船がバーっと入ってくるような光景が見られるのは三保だけなんですよ。

今こそ変革のとき!

今から50年ほど前、このエリアには三保文化ランドがありました。

大きなプールがあったりSLに乗れたりする、いわゆる遊園地ですね。東海大学の創設者、松前重義先生がつくられた施設なんですが、当時は何十万人という人々が三保まで遊びに来ていました。
 
そこに行くために清水駅から渡し船が出ていました。造船事業も盛んで、仕事を終えた労働者が立ち寄るための銭湯や飲み屋もずらっと並んでいたんです。人々の生活も経済も賑わっていました。

しかし工業が下火になり、客足も徐々に遠のいていきました。

今でも多くの方々が三保を訪れていますが、水上バスを降りて目にするのが古い海の家にシャッターの下りた店ばかりです。お茶を飲んで一息つけるところもない。

富士山が世界文化遺産に登録され、三保の松原が賑わいを見せたのものの、リピーターの確保に苦戦しているようで、「世界遺産があるから行ってみたけど、何もない寂しいところだった」といった声をたくさん聞くようになってきました。

そんな中、市は客船誘致を始めています。

始めることはもちろんいいことなんですけど、観光客が来たところでコンテンツがない。あるいは整備が整っていない場所にお客様を招いても、アウトレットや大型商業施設に人が流れてしまうだけです。

いくら観光客が増えても、ポジティブなキャンペーンになるか、はなはだ疑問でした。

同じタイミングで海洋科学博物館と自然史博物館も営業終了が決まりました。清水のレジャーがまたひとつ減ったと話題になりましたよね。

三保はもうどうにもならないよ……。そう嘆く方々もいます。しかし僕はまったく気にしていません。むしろ、栗山社長もおっしゃっていたように、キャンバスに新たな絵を描き出すチャンスだと思っています。

これはきっと、変革のタイミングなんです。

コロナがそうさせたのかもしれませんし、120周年を迎えた清水港がそういう時期に差し掛かっているのかもしれません。戦後60年の中での一番のターニングポイントが三保に来ているのだと僕は思っています。

世界の三保になる

三保復興の鍵はスーパーヨットの誘致が握っていると僕は考えます。スーパーヨットとは、主に裕福層が所有している大型レジャー船舶のこと。

一般的な客船を誘致するのもいいですが、オーナー所有のクルーズ船が港に停泊しているだけで雰囲気がよくなりますし、移動手段と宿泊施設を兼ねるので、コロナ禍であっても周囲を気にせずに観光ができます。

なによりスーパーヨットの所有者は海外の裕福な方が多い。現に沼津に船舶を停め、ヘリコプターに乗って箱根に移動するようなケースも散見されます。相当なインバウンドが見込めるでしょう。

同時にスーパーヨットの誘致のためにはマリーナ事業の展開が急務だと考えます。マリーナ事業とは、船舶の管理や販売、修理などを請け負う事業のことです。船を停泊させるのだから、船のプロフェッショナルを常駐させる必要がありますよね。

マリーナ事業は黒字化がしやすいため、三保に新たな雇用を生むことができるのではないかと考えています。

これからもっともっと三保に雇用をつくっていきたいです。若い子たちがアルバイト、正社員として働いてくれて、最終的にはこのエリアに住んでくれるかもしれない。

そうやって三保が賑わっていく未来を僕はつくっていきたいです。

トイレを借りに来てくれてもいい

あらためて’Ulalenaについて紹介をしますと、一階はレストランカフェで二階は宿泊スペースになっています。ガーデンスペースのコンロでバーベキューを楽しむこともできますし、じきにサウナも完成します(※すでに利用可能)。

自分で言うのもなんですが、’Ulalenaは随所にこだわりの詰まった建物になっています。

たとえば電球一つとっても、「イメージに合わないので変えてください」と業者の方に何度もお願いをして変えもらいましたし、二階も、当初の予定では4部屋できるはずだったのを「それじゃおもしろくないでしょ」とミーティングを重ね、2部屋にしてもらいました。

そのほうが絶対に来てくださった方のテンションが上がりますよね。少しでもお客様に楽しんでもらえるように、できるところは片っ端から工夫しています。

‘Ulalenaの店内

​​’Ulalenaでの僕の役割は皿洗いとドリンクづくりです(笑)

これにもちゃんと理由もあって、お客様がどの程度食べ残しをしているかチェックしたかったんです。
 
お店がオープンしてから5ヶ月で、すでに大きくメニューを変えています。じつは’Ulalenaの前にも折戸で小さなカフェをやっていたんですが、この規模のカフェになると勝手が全然違います。

コーヒーひとつとっても、カップの大きさを変えたら飲み残しが増えてしまいました。同じメーカーのコーヒーを使っているので味は同じはずなのに、ちょっとしたことでお客様の反応が違ってきます。本当に、オープンしてから毎日勉強させてもらっています。

地元の方々が「こういう場所を待ってたんだよ」と応援してくださいますし、地元の主婦の方々や、小さなお子さんのいらっしゃるママさんたちにもご好評いただいているようです。ありがたいことです。

うちにもまだ小さい子どもがいるのですが、静岡の街中に行って子連れの親たちがのんびりランチを食べたりできる場所が少ないように思います。

ここだったら親たちから見える範囲で子どもたちを思いっきり遊ばせられますよ。ぜひ、ご家族でご利用ください。

二階の宿泊スペースも、「家から近いけど、ちょっと泊まってみようかな」と思ってもらえるような、地元の方々に愛される場所にならなきゃいけないと思っています。

最終目標が外からの観光客だとしても、まずは地元の人に「すごい場所があるぞ」と思ってもらわなければ、誰も外に宣伝してくれないでしょう。

宣伝広告費につぎ込むのではなく、実際に利用してくださった方が広めてくれるのが一番リアリティがあって効果的なんじゃないかと思っています。

みなさんにはパブリックな場所としてここを利用してほしいですね。たとえば、トイレを借りに来るだけでもいいですし、雨宿りのために使ってくれてもいいです。ちょうど目の前に水上バスが停まりますので、休憩所代わりに寄ってくれてもいいです。

三保観光の案内所の役割も担えるようになりたいです。これから電動のトゥクトゥクも常置させる予定ですので、ぜひ散策に使ってください。

とくになにかをするわけではなく、ただゆっくりするためだけに三保にくればいいんですよ。のんびりセーリングをするでもいいし、ぼーっとするだけでもいい、散歩するだけでもいい。

そこにおいしい食べ物と、ちょっとしたエンターテイメントはなくちゃならないなって思いますけど。

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