2026.01.30
自社ブランド開発!介護医療の現場を救う「姿勢保持クッション」|株式会社丸井商事 代表取締役 井木英之様 インタビュー

負担軽減と姿勢維持を可能とする「ナジーム®」

丸井商事は、ウレタン加工と介護医療分野向けの姿勢保持用クッションの製造・販売を手がけています。
介護現場でクッションに求められる重要な機能の一つが「ポジショニング」です。ポジショニングとは、体を自力で動かすことが難しい方に対して、負担の少ない姿勢や、維持したい姿勢を支えることを指します。
しかし、従来のクッションでは、身体にフィットしにくかったり、フィットしても安定性が不十分だったりする課題がありました。そこで当社は研究開発を重ねることで、流動性と安定性を両立する独自素材の開発に取り組みました。
そして誕生したのが、令和7年度静岡市中小企業技術表彰を受賞した特殊素材「ナジーム®」です。ナジーム®は、安定性と流動性を兼ね備えており、利用者の体形や動きに合わせてしっかりと姿勢を支えます。
これにより褥瘡(じょくそう)・拘縮(こうしゅく)予防、筋緊張の緩和、呼吸状態の改善などの効果が期待されています。さらに、洗浄が可能な素材であることから、衛生面における課題もクリアしました。

私たちにできることはないだろうか?
私が三代目として会社に入ったとき、すでに一定の事業基盤は整っていました。その中で「会社として次に何をすべきか」を考えたときに思い浮かんだのが、自社ブランドの立ち上げでした。
海外製品の品質が年々向上する中で「このままでは先細りしてしまうのではないか」という危機感を抱くようになったことが一つのきっかけです。また、メーカーとして、ただお客さまの要望を聞くだけでなく、こちらから価値を提案していくことの必要性も感じていました。
とはいえ、想いはあっても新商品開発は進まず、行き詰まりを感じていました。そんな中で出会ったのが介護の現場で働く方々です。
ご縁があって、京都にある介護施設を訪れる機会があり、そこの介護士の方からある相談を受けました。その施設ではポジショニングに力を入れていましたが、使用しているクッションは作業療法士の先生が一つひとつ手作りしているものでした。感触やサイズ感にこだわりがあり、市販品ではどうしても合うものが見つからなかったのです。
さらに、汚れた場合は使い捨てにするしかなく、現場の負担も大きいという課題を抱えていました。そうした声を聞き「私たちにできることはないだろうか?」と考え、商品開発に取り組み始めました。
産学連携での開発に発展
そこからは試行錯誤の日々。試作品を手に何度も施設に足を運びましたが、なかなか首を縦に振っていただけませんでした。それは先生が利用者一人ひとりの状態に向き合い、細かな点にまで強いこだわりを持っていらっしゃったから当然です。他の施設からも同様の相談を受けましたが、やはり完成には至りませんでした。
そんなある日、素材を探して訪れたウレタン工場で転機が訪れました。工場の床に落ちていたウレタン素材を何気なく拾ったところ、「これだ!」と直感したんです。そこから本格的に素材の選定が始まりました。
時代の流れも追い風となりました。ちょうどその頃から、介護業界でも「ポジショニング」が重視されるようになってきたんです。そうしたニーズの高まりもあり、産学連携のお話をいただき、大学の先生と共同で開発を進めることになりました。
現場の声と学術的な知見を掛け合わせ、試行錯誤を重ねた結果、ようやく現在の形にたどり着くことができました。
私たちの技術を必要としている人がいる
記憶に残っているのは、ある利用者の方の言葉です。
その方は胃を全摘出されており、横になった姿勢でいると胃液が逆流し、喉が焼けるように痛むと話してくださいました。クッション完成後、さっそく使っていただいたところ、「本当に楽になった」と何通ものお礼のはがきを送ってくださいました。さらにその方は、静岡までわざわざ私たちに会いに来てくださいました。
一人ひとりに完全に合わせたオーダーメイド製品をつくることは難しいかもしれません。でも、このような出来事を通じて「まだ私たちの技術を必要としている人が、ほかにも必ずいる」ということを実感できました。
30分でいいから同じ姿勢をキープしてみて
これまで数え切れないほどの失敗作をつくってきました。しかし、そうした失敗があったからこそ、見えてきたことがあります。このクッションも一見するとシンプルな素材に見えますが、実際には使用感や色味など、数多くのノウハウが詰まっています。
たとえば、ファスナーの有無といった些細な違いであっても、体を自由に動かせない方にとっては快適さを大きく左右する重要な要素になります。「30分でいいから同じ姿勢をキープしてみてください」と現場の方から言われたことがありましたが、姿勢を気軽に変えられる健常者には気づけないことが、介護や医療の現場にはたくさんあります。
同じように、実際に利用される方でなければ分からない違いや不便さが、まだまだあるのだと思います。だからこそ今後も調査を怠らず、これまでと同じ姿勢でお客さまの声に応える商品開発を続けていきたいと考えています。
受賞は社員たちのおかげ
今回の受賞は、間違いなく社員たちのおかげです。今、会社にいる仲間はもちろん、すでに会社を離れた人たちも含めて、関わってくれたすべての社員に感謝したいです。受賞の様子やこの記事を通して、「みんなのおかげで、ここまで来れたんだ」という気持ちを伝えられたら嬉しいです。
開発を始めたばかりの頃は、正直つらい経験もたくさんしました。それでも、まだ売り先も決まっていない中で「この商品には価値があるはずだ」という確信だけはありました。むしろ、そうした失敗や苦難の経験が今の自分の原動力になっているのでしょう。
これからも仲間とともに、次のステージへ進んでいきたいと考えています。

※本記事の内容は2025年11月時点の情報です。
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