2025.01.31
生産性向上の鍵は女性活躍にあり|中原精密株式会社

当記事は『令和6年度静岡市中小企業技術表彰』との連動企画です。
医療機器や半導体部品など、40年以上にわたり精密部品の二次加工を専門に行ってきた中原精密株式会社。同社はこの度、体内手術用医療機器の部品製造において新たな工法の開発に成功しました。
この工法は製造効率を飛躍的に向上させるとともに、排出されるCO2や産業廃棄物の削減に寄与することで、2024年度静岡市中小企業技術表彰を受賞しました。
また、同社は従業員の8〜9割が女性であり、女性の働きやすさを推進している会社でもあります。
中原精密株の技術開発に込められた想いや、女性活躍への取り組みを岩崎篤社長に伺いました。
https://www.big-advance.site/s/124/1704
カレーに醤油を一滴入れるような発想
医療技術とテクノロジーの進歩により、医療用ロボットの需要は世界的に高まっています。みなさんも、通常の手術にロボット機能を付与する手術支援ロボットの存在を耳にしたことがあるかもしれません。
医療用ロボットの部品は手術の成功を大きく左右します。しかし、製造には高い精度と細やかな作業が求められるため、大量生産が難しいという問題がありました。
弊社にも腫瘍などを取り除くための爪である「先端鉗子部品」の製作依頼がありましたが、お客さまが希望される数を聞いて頭を抱えました。一般的に用いられている切削加工(金属を削る加工法)では、日数もコストもかかりすぎてしまうのです。最新の機械を導入することも考えられますが、その分のコストは会社にもお客さまにも優しくない……。
悩んだ末に弊社は、金属を型にはめて成形する技術を開発しました。
自動車のドアのような大きな金属部品を想像していただければわかりやすいでしょう。一つの金属の塊から削り出していくより、鉄板を叩いて加工する方が負担が少ないと思いませんか。
このような”削らない製法”によって、製作時間を数十分の一に抑えることに成功しました。同時に、切削加工で出る削りかすを抑えられるため、環境への負担も軽減されますし、機械の稼働時間が減るということはCO2排出量削減も期待できます。

この技術が評価され「静岡市中小企業技術表彰」を受賞することができました。
もしかしたら「すごく斬新な発想があったのではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私たちがやったことは世界で初めての大発見ではなく「カレーに醤油を一滴入れたら美味しくなった」くらいの小さな隠し味と同じです。「普通はそんなことしないだろ」という発想をあえてして、たまたま上手くいった例ではないでしょうか。
全国的にも珍しい二次加工専門の会社
弊社は腕時計の歯車やネジといった細かい部品をつくる会社として、50年ほど前に創業しました。
その後、プリンターや携帯電話の部品加工を経て、現在のような胃カメラや内視鏡、医療用ロボットといった医療機器の部品加工をメインとするようになりました。
弊社の一番の特徴に、お客さまからお預かりした部品を加工する「二次加工」や「追加工」といった作業を得意としていることが挙げられます。
たとえば「この部品に穴を開けてほしい」とか「溝をつけてほしい」のように、小さな部品にさらに小さな加工を施すような作業が必要なときに弊社が活躍します。
弊社は40年以上にわたって、この二次加工を中心に矯正や切削加工を行ってきました。二次加工を専門に行っている会社は全国的に珍しく、西は九州から東は北海道まで、多くのお客さまにご利用いただいています。
先入観を持たずにトライする。

私たちが技術開発で大切にしていることは二つあります。
機械を上手く使うことと、積み重ねたノウハウを活用することです。
今回の案件も、最新の機材を導入すればある程度は時間短縮できたでしょうが、それでは根本的な問題の解消になりません。機材はどんどん新しくなっていきますし、世間で求められる要求のレベルも上がり続けています。そのたびにお金をかけていたらきりがない。
今あるものをいかに使うかを意識し、そこに積み上げてきたノウハウを上乗せすることで、これまでも道を切り開いてきました。
できるわけがない。
無理に決まっている。
そんな先入観がなかったからこそ、この新しい工法が生まれたのだと思っています。
先入観と言えば、こんな話があります。
弊社で取り扱っている製品の多くは、100分1から1000分の1ミリほどの精密部品です。たとえば、紙の名刺を20分の1にスライスしたくらいの厚みでしょうか。
弊社ではパート社員の方でもその精度の作業を普通にやっていますが、経験者の目から見ると「そんな精度のもの作れるわけながい!」と思えてしまうようです。今までも経験者の方が採用面接で「私には自信がありません」と辞退されてしまったことがありました。
しかし、経験がない方には先入観がありませんから、「細かいな」と思われることはあっても最初から「自分にはできない」と思い込んでしまうことはないようです。
むしろ、「工場のみんながやっているのだから自分にもできるようになるはずだ」と思ってくれるようです。そうして仕事を続けているうちに、いつの間にか技術が職人の域に達して、自信を持って仕事をできるようになっていきます。
生産性向上の鍵は女性の働きやすさにあり

弊社では子育て中の社員が安心して働けるよう、お子さんが急病になったときや、運動会のような学校行事のときなど、気軽に休みを取れる環境を整えています。
これは母から教わった「女性が働きやすい環境を整えることが生産性向上の鍵になる」という考えに基づいています。この文化やノウハウは、昔から会社に根付いていました。
私の両親が始めた会社は、近所の主婦の方々を中心に人手を増やしていきました。事業が拡大しても、女性従業員が中心であることは変わりませんでした。保育園への送り迎えや仕事が終わるまでのお子さんの世話を会社全体でサポートしており、私も従業員のお子さんと一緒に遊んでいた記憶があります。
その影響もあり、私も女性が機械を使うことが自然なことだと感じて育ちました。私が会社を引き継いだ後も、その仕組みに疑問を持つことはありませんでした。
働きやすい環境を整えるためにやったことは、休みやすさといったソフトの面に限りません。たとえば、重い物を持ち上げるためのリフト導入や、立ち仕事を快適にする柔らかいマットの設置、疲れにくい靴の支給など、ハード面においても作業への負担を軽減することに尽力しました。
「男性しかできない仕事」というのは腕力が必要だったり体力的にキツかったりと、どこかに改善の余地があるはずです。そのような課題を取り除いてやれば、長時間元気に仕事をすることができる。すると結果的に生産性も向上します。
つまり仕事を効率化し、従業員の負担を軽減することは会社の利益にもなり、従業員と会社のWin-Winを実現します。
また、これは女性社員に限りませんが、従業員の誕生日にはプレゼントを贈り、みんなでお祝いをしています。このような小さな心遣いは仕事へのモチベーションを高め、他の従業員が急に休んでも気持ちよくピンチヒッターに入れるようなポジティブな循環につながります。
これからも静岡で女性の活躍できるロールモデル構築に力を注ぐとともに、障がい者や外国人など多様な人たちの雇用を推進したいと考えています。
不可能に勝る「助けたい」気持ち
私たちのもとに持ち込まれる課題の中には、ありきたりな技術や製法では作れないものも珍しくありません。もちろん、最初に相談されたときには悩んでしまいますが、困っているお客さまを見ると「なんとかして助けたい」という気持ちが勝ってしまうんです。
同時に、チャレンジ精神がくすぐられるような感覚もあります。他のメーカーが「うちにはできない」とさじを投げた技術や製品の存在が、私たちを奮い立たせるのです。自分たちならできるかもしれない、と。
そのように他社の「できない」に立ち向かっているうちに、業界での困り事が自然と集まってくるようになりました。時には「困ったときの中原頼み」という言葉も聞こえてくるくらいです。
お客さまの望みを叶えるために、私たちはどんな時も諦めたくありません。
私たちが目指すのは、誰もが頭を抱える問題を解決することです。これからもお客さまの悩みを解消するために、社員一丸となって知恵を絞り、挑戦し続けていきます。

協力:静岡市経済局商工部産業振興課
カテゴリ
こんな記事はいかがですか?