2023.06.07
事業承継に見る女性経営者の悩み | 株式会社山崎製作所 山崎かおり社長インタビュー
金属加工への熱い情熱と技術で地域のものづくりを支える株式会社山崎製作所。同社の山崎社長は、ものづくりの魅力を伝える工場見学イベント「静岡オープンファクトリー」の中心人物でもあります。
静岡みんなの広報は、山崎社長が経営者となった時の苦悩や社員への向き合い方について伺いました。
▼前回の記事はこちら▼
工場見学で静岡のものづくりにムーブメントを | 株式会社山崎製作所 山崎かおり社長インタビュー
小さな絆を蓄積する新社長としての一歩
私はもともと父の経営する山崎製作所の経理を担当していました。
会社を継ぐつもりもなかったので、工場でどのような製品がつくられているかもあまり知りませんでしたし、経営側としての意識はまったくなく、「この先、会社はどうなるのかな……」と、他人事のように感じていました。
ところが2008年、リーマンショックで世界的に景気が悪化。
うちのような下請け会社も例外ではなく、3、4ヶ月遅れて不況の煽りを受けました。売上は半分になり、社員にも休んでもらわなくてはいけませんでした。くわえて父は持病もあり、これ以上経営を続けるのが困難となりました。
悩んで悩んで、「社員の生活を守るためには私が引き継ぐしかない!」となんとか覚悟を決めました。
しかし、決心したまではよかったものの、私には経営の知識も経験もまったくありません。ほとんどゼロからのスタートです。
それからは勉強の毎日。一刻も早く会社を立て直すため、必死でした。社内を見つめ、社外を見つめ、新たな代表として会社が生き残る手段を模索しました。
山崎製作所は、とにかく変わらなければいけなかった。専門家の方々にも入っていただき、新しい機材や仕組みを取り入れるよう、社員さんたちに訴えかけました。
結論から言えば、そういった提案のほとんどは受け入れられませんでしたし、一年勉強してつくった新たな経営理念にも、あまり良い反応が得られませんでした。
だって、当たり前じゃないですか。会社には長年培ってきた技術や伝統があって、私のような素人が「こうしたほうがいいと思います!」と声を上げても理解されるわけがない。
当然ですが、「社長」というのは名前ばかりでした。最初はショックを受けましたが、私が社員の立場だったとしても同じように、現場を知らない新社長の言葉は右から左だったでしょう。
むしろ、教えてもらう立場にあったのは私のほうです。変わるべきは私自身でした。
だから、社員さんたちに相談しながら会社を変えていく方法を一緒に考えてもらうことにしました。気軽に意見を言い合える環境を整えるところから始め、小さな絆を蓄積していくことに専念しました。
そうして社員さんたちが納得できるまでじっくり議論を重ねながら、機械のIoT化を進めたり、業務の体系を見直したりと、少しずつ少しずつ会社を変えていきました。
大切なのは、最初から社員や会社を変えようとせず、まずは自分が変わる努力をすることですね。今でもトップダウン方式で「これをやります!」という一方的な変え方はしていません。
社長の力なんて、ちっぽけなものです。
私一人にできることは本当に狭い。ある方向を指し示すことはできても、その方角に会社を推し進めてくれるのは社員たちです。舵があっても帆がなければ船は進みません。
これからも一つの共同体として、社員たちとともに会社を良い方向に進めていければと思います。
可視化されてきた女性経営者の悩み
少しずつ増えているとはいえ、製造業の中では女性社長ってまだまだ珍しいじゃないですか。私が事業承継して社長になった時もそうでしたが、相談する相手が圧倒的に少なかった。
サラリーマンである夫は夜遅くまで働いていましたし、家庭のこと、子どものことに比重が傾いていた私は、唐突に降ってきた「経営者」という肩書きに押しつぶされそうになりました。
私と同じように、急遽社長に就任した女性に相談を持ちかけられることもありますし、事業継承の相談会へ講師として声をかけられることもよくありました。
そういった事業承継相談の窓口がないわけではないのですが、相談を受ける上で、やはり相談者に近しい環境や経緯を持った人のほうが寄り添いやすいと感じていました。
女性の事業継承を中心に相談できる窓口がないものか……じゃあ、しかたない、私たちがやろう! と、静岡の女性経営者たちと立ち上げたのが静岡県女性経営者団体A・NE・GOです。
女性の活躍が当たり前の未来に備え、経営のこと、事業承継のこと、プライベートのことを気軽に相談できる窓口に、私たちはなりたいと考えています。
県外からも相談に来られる方もいらっしゃいます。中には乳飲み子を抱えた主婦だったのに、経営者である父が亡くなったことから急に会社を引き継ぐことになったケースもあります。私のように、会社を継ぐことを視野に入れていなかった方が本当に多い。
そんな方々の心の拠り所になれれば幸いです。
課題はいつも自分にある
会社として取り組んでいるのは、チームの課題、会社の課題を自分ごととして考えられる社員の育成です。
毎日仕事をしている中で、絶えず課題は生まれます。うまくいかずに悩むこともあるでしょう。
そういった時、自分の課題ももちろんなんですけど、会社の課題、チームの課題を「いかに自分ごととして改善を考えていくことができるか」というところに、私たちは重きを置いています。
人って、どうしても課題を誰かの責任にしたくなってしまいます。会社のせい、上司のせい、社長のせいって。うまくいかない理由を外に求めてしまうものです。
……と、偉そうに言っている私だって、そう。
社長に就任したばかりの頃だって、「なんでみんな私の言葉を聞いてくれないんだ」と、都合の悪い事実から目を背けていました。でも、冷静になって考えてみると、私にできることはいくらでもあったわけです。
自分の人生がかかっている会社だから、みんなでつくっていこう、良くしていこうと考えていたいと常々思っています。その「みんな」の中には、自分も含まれるわけです。
誰かがやってくれるのを待つのではなく、今、自分にできることを考え、行動していくマインドを会社全体で育てていきたいと考えています。
オープンファクトリーの取り組みだって同じ。
ものづくり業界を盛り上げるために何ができるのかを考えた時に、「誰かが引っ張ってくれるのを待とう」とではなく、「私たちが盛り上げるんだ!」という心意気で動き出しました。
何度も言ってしまって申し訳ありませんが、静岡のものづくりは本当に、本当にすごいんですよ。地域の方々がそれに気づければ、静岡のものづくりはもっとよくなります。
素晴らしい技術をお持ちの方々、ものづくりに熱い想いのある方々、私たちと一緒にものづくり業界にムーブメントを起こしましょう!
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