2023.08.04
廃校になった校舎をグランピング施設に | Glamping & Port 結 | 株式会社アイワコネクト深澤社長インタビュー
小学校の校舎に泊まった経験がよみがえって……。グランピングの非日常感と小学校のノスタルジーを一緒に楽しめる施設にしたいと考えるようになりました。
そう語るのは、Glamping & Port 結(ゆい)の運営会社である、株式会社アイワコネクトの深澤一浩社長です。
同施設は、2022年3月にオープンしたテントや道具を準備することなくキャンプ体験が楽しめるグランピング施設です。
廃校になった小学校を活用していることから、ノスタルジックな気分に浸ることもできると若い方々やファミリー層を中心に人気となっています。
そんなGlamping & Port 結は、静岡県島田市の“ある課題”を解決するために生まれたといいます。
Glamping & Port 結は、どのような想いで運営されているのでしょうか。施設誕生までの経緯とともに、深澤社長に伺いました。
静岡県島田市に宿泊してほしい!
Glamping & Port 結の前身である湯日(ゆい)小学校が廃校になったのが、2021年の3月。
廃校が決まった時に島田市の染谷市長から、「ここをまちづくりや地方創生に活用できないだろうか」という相談がありました。
ではいったい、どのように活用しよう?
私たちはまず現場を視察し、湯日小学校跡がどのような場所なのかを調査しました。
立地はけっして悪くありません。場所は東名高速道路のインターから10分、富士山静岡空港からたった5分の距離にあります。
しかし、富士山静岡空港が近くにあるのに、「外から来た人が地元に泊まらない」という課題がありました。島田がただの流通拠点になってしまっている。海外から来た観光客は、ここを拠点にして東京や名古屋といった大都市に流れていってしまいます。
「だから地元が盛り上がらないんだよ」という声をよく耳にしました。
駅前やインター付近に宿泊施設がないことはないんですが、それもビジネスホテルばかりで、ファミリー向けの宿泊施設が少ないんです。それじゃあ、家族で旅行に来た人は泊まらない、泊まれないですよ。
だったらここを、家族連れを始め、中国や韓国、台湾からの旅行者が「島田に宿泊したい!」と思える観光宿泊施設にしていこうと考えたのが、すべてのスタートです。
よみがえる、子ども時代の思い出
ターゲットが定まり、次に考えたのは「どのような観光宿泊施設にするか?」です。
まず、「廃校を利用した宿泊施設」という看板は、アドバンテージになると考えました。
しかし、廃校をホテルに改装した建物は京都にもありました。それに、あちらは建物自体にとても雰囲気があるため、同じように内装を整えるだけではインパクトで負けてしまいます。
じゃあ、他にどんな宿泊施設のバリエーションがあるかと考え、行き着いたのがグランピングでした。
グランピングはコロナ禍で一気に注目が集まった、非日常感が人気のアクティビティです。ここに「廃校を再利用した施設」というバリューが重なれば、宿泊の動機になるのではないかと、私たちは考えました。
この「学校に泊まる」という発想は、掘り下げていくと、私の子ども時代までさかのぼれます。卒業記念で校舎に泊まった経験があったんです。
みんなで企画を考えたら担任の先生に熱意が伝わったのか、頑張って学校を説得してくれて。体育館で遊び、家庭科室でカレーをつくり、寝袋を持ち寄って教室で寝るイベントが実現しました。もちろん、夜の校舎では肝試しもしました。
今でも大切な思い出の一つです。
島田市からお話をいただいた時、この記憶がふいによみがえってきて、「あの楽しさを再現できないか」と考えたのが、Glamping & Port 結の根っこになりました。
校舎に明かりが戻る
Glamping & Port 結はオープンから一年で、約1万3000人ものお客さまにご宿泊いただきました。ありがたいことです。
じつはそのお客さま第一号は、湯日小学校に関わりの深い方たちでした。昨年2月、オープンを控える施設に湯日小学校の最後の卒業生とそのご家族を無料で招待したんです。
その時の、とても印象深いエピソードがあります。
宿泊会が始まる直前、親御さんの一人がこのようにおっしゃってくださいました。
Glamping & Port 結が、人の幸せに繋がったと実感した最初の体験でした。
これからも、遠くからいらっしゃるお客さまにご満足いただくとともに、地元の方々との交流を続けていきたいと考えています。
私たちが前例になればいい
Glamping & Port 結のオープンまでの道中は、しかし、苦労しました。
建築基準法や土地利用の制度、そういった法的要件をクリアするために、必要な資料をかき集め、行政の方々とも度々話し合いをしました。
島田市も、市の資産を民間に貸し出すということ自体が初めてでしたから。前例がないわけです。でも、前例がないなら私たちが前例になればいいという気持ちで計画を推し進めました。
染谷市長もスピード感を持って動いてくれましたし、資産活用課の担当者の方も、私たち民間企業に考え方を合わせてくださって非常に助かりました。
会社としても初めての挑戦でした。
弊社の親会社であるアイワ不動産は、あくまでも土地と建物の専門家です。宿泊や飲食に関しては素人同然。社内に正解がわかる人間が一人もいませんでした。
たとえば、「食材の原価は何%が適当かな?」なんて聞いても、誰も知らないんですね。なので、グランピングをやっている業者さんとの新しい関係をつくり、ご支援を受けながらプロジェクトを進めてきました。
このように市長、行政、地元、同業者の方々など、さまざまなお力をお借りしてGlamping & Port 結は生まれました。
これでいいと思った時から衰退が始まる
新たな事業を始めようと考えたもう一つの理由として、「新たなノウハウの蓄積」があります。
私たちはすでにマンスリー賃貸の事業を行っていました。マンスリー賃貸とは部屋を一月単位で貸し出す形式です。これを短く区切り、一日単位にしたのがホテルや宿泊施設の業態と考えることができます。
厳密には適用される法律が変わるのですが、部屋を貸し出すという意味では同じであり、このデイリーでの運営ノウハウはきっと、今後のビジネスの裾野を広げる手助けになると考えました。
「“これでいい”と思った時から衰退が始まるんだ」
これは弊社の創業者の言葉です。現状に満足することなく、新しいことに挑戦し続けなさいという教えを、私たちは大切にしています。
島田市との契約は20年。長いように感じられますが、若い社員からすれば、20年後も現役で仕事をしている可能性が高いです。
その間にもやはり、社員を不安にさせないために新たな展開を考えていく必要があります。Glamping & Port 結の運営で飲食店のノウハウもついてきたので、もしかしたら今後、自分たちで飲食店をオープンすることもあるかもしれません。
ただ、その時も、「ここの土地にこういう店を出したら、まちが賑わうのではないか」という、私たちの柱である不動産の視点は持ち続けていきたいです。
答えは現場にある
Glamping & Port 結を運営するにあたり、私がもっとも大切にしているのは「現場に意見を言わない」ってこと。だって、答えは現場にありますから。
私がずっと現場に張り付いていられるわけではもなく、基本的に関わるのは週一、二回の報告だけ。時々顔を出すくらいでは、課題には気づけないですよ。なので優先すべきは当然、現場スタッフの意見です。
現場から生まれたアイデアもたくさんあります。
たとえば、小学校の教科をモチーフにしたアクティビティを考えているのは現場のスタッフたちです。
「家庭科室でポップコーンをつくろう」とか、「図工室でフィンガーペインティングをしよう」など、私は一言も言っていません。
夏メニューにアヒージョを取り入れるのも、地元のお茶を使ったお菓子を売り始めるのも、全部全部、現場スタッフから出た意見で、私は許可しただけです。
その場をよくする方法は、そこにいるスタッフが一番わかっていますし、上から「これを売るから頑張ってほしい」と指示するより、社員たちが自分で考えたほうが「頑張って売ろう!」となりやすいじゃないですか。
とくにオペレーションの面では、現場にいなければ見えないことばかりです。
たとえば最初、パジャマやアメニティを人数分きっちり用意して、テントに備え付けていました。ただ、使用状況を見ると、それほど使われていないことがわかりました。
なので、お客さま自身で必要なものを必要な分だけ選んで持っていけるスタイルに変えました。すると、無駄になるアメニティも減り、何よりオペレーションがだいぶ楽になったみたいです。
そのように、細かいところは現場レベルで変えられるようにしています。
ただ一点だけ、私が指摘するのは「清潔感」です。掃除が行き届かなくなることだけは避けるようにと、口を酸っぱくして言っています。
私、社長に会ったことがありません!
忙しい時期には、私もサポートとして現場に入ることがあります。オペレーションはできないですから、サポートすると言っても食器を洗ったり、草むしりをするくらいですけど。
そういえばオープンしてすぐ、こんなことがありました。
Glamping & Port 結では、みんなユニフォーム着て作業をしているんですが、その日は新しく入ったアルバイトスタッフに私のユニフォームを貸していたため、私だけ私服で作業をしていました。
そしたら一緒に作業をしてたパートの方が、「ダブルワークですか?」って聞いてくるんです。私はちょっと不思議に思いながらも、「ええ、そうです」と答えました。
するとその方が「早くユニフォームをもらえるといいですね」って(笑)
なぜかというと、パートやアルバイトの面接は現場に任せてあるので、私との面識がなかったんですね。
その後どこかで知ったのでしょう、「先ほどは失礼しました!」と謝られました。話しかけられた時に正体をバラせばよかったんですが、そういう時って言いづらい(笑)
それからしばらく経って、去年の夏。
22日連続満室という繁忙ぶりだったので、少しでも助けになればと思って、施設内の草むしりを手伝いに行きました。
その時にも、一緒に仕事をしたパートの方から「私ね、今日で出勤4日目になるんだけど、一度も社長さんにお会いしたことないんです」って言われました(笑)
まあ、そんな感じでいいんです。主役は現場の人たちで、私はあくまで裏方ですから。
新たな縁を結ぶ港になる
Glamping & Port 結には、「訪れる人々と街・時・世代・縁を“結ぶ”拠点でありたい」という願いが込められています。
グランピング“リゾート”と名乗る施設が多い中、あえてグランピング“ポート”としたのも、港のような繋がりを意識したからです。社名もそこから考えてアイワ“コネクト(繋ぐ)”となりました。
運営を始めて一年、施設に込めた願いがどんどん現実のものになっている印象です。とくに感じているのは地元の方たちとの繋がり。
たとえば、ウェルカムドリンクで出してるお茶は、地元のお茶農家さんが提供してくださっています。
施設の近くにお茶の加工場があって、農家の方々が協力してくださるんです。今年のゴールデンウィークには13種類ものお茶が集まり、それを飲み比べて聞茶(ききちゃ)をする体験も行いました。
また、施設には地域交流スペース「ローカルポート」があり、地元の方々にも使っていただいています。
スイーツやハンドメイド雑貨、地元の野菜を販売する「ゆいまぁる」も定期的に開催しており、多くの方々との交流が生まれています。
このように、地元の方々も積極的に関わってくださり、地域連携や宿泊ツアーの計画も上がってきています。
今後も繋がりを大切にしながら、地域の課題解決のためのソリューションを生み出していきたいと考えています。
カテゴリ
こんな記事はいかがですか?