2022.08.10

地方の老舗企業がキャリア教育を変えていく | フジ物産社長・社員ダブルインタビュー

石油製品の販売や漁業用餌料の販売、うなぎの養殖・加工事業など、多角的に事業を展開するフジ物産株式会社

同社が新たにスタートしたキャリアサポート事業「Ath-up」とは、どのような事業なのでしょうか。

今回、静岡みんなの広報は、山﨑伊佐子社長と社員の山本大輔さんにAth-upの詳細や日本のキャリア教育の未来について伺いました。

(取材先)フジ物産株式会社【公式ホームページ】

アスリートから声が上がった時のため

【山本さん】

この度は、事業が始まったばかりのタイミングで取材していただきありがとうございます。

まずは僕のほうから、フジ物産が目下取り組んでいるAth-up(アサップ)についてご説明いたします。端的に言えば、アスリートが引退した後の第二の人生をサポートする事業です。

「Ath-up(アサップ)」アンバサダーに、ベルテックス静岡 大石慎之介選手が、就任!(PR TIMES)

Ath-upは三つの柱からできています。

一つはキャリアカウンセリング&マッチングです。人材紹介に近い取り組みですね。アスリートの方のキャリアを棚卸しして、本人のやりたいことに沿ったキャリアプランを提案していきます。

二つ目は、新たなキャリアの準備段階に当たる部分のサポート、いわゆる「研修」です。キャリアアッププログラムAth-up未来塾という二つのコースを用意しています。そこではアスリートの方に、ビジネスパーソンになるためのマインドセットやスキルを身につけていただきます。

三つ目はメディアです。アスリートの方やスポーツ業界のプロフェッショナルの方が「セカンドキャリア」というテーマで話していただくインタビューを展開しています。まだ始めたばかりですが、いずれメディア単体でもバリューが出るようなものに育て上げていきたいです。

【Ath-up】ミスターエスパルスが語る、企業から見た元アスリートのストロングポイントとは?

【Ath-up】“できない“を良しとしない ゴールに向かうアスリートの推進力を静岡の伝統工芸に生かす道

現状として、もっとも企業ニーズが強いのは人材紹介の部分です。「アスリートを採用したい」という問い合わせが、静岡の優良企業から次々と入ってきています。リリースしたばかりなのに、ありがたいことです。

一方でアスリートの方々は、目の前の試合に集中しなければいけないため、引退後のことを今すぐ考えるのは難しいようです。これまでセカンドキャリア支援という考え方自体が業界に浸透していなかったこともあるでしょう。

ただ、僕たちの仕事は適切なタイミングでサポートをすることです。そのためにもAth-upの取り組みを徐々に広めていき、アスリートの方々との間にパイプをつくっていくことが大切だと考えています。

僕たちがやらなければいけないのは、アスリートから声が上がった時にいつでもサポートできる体制を整えておくことです。

【山﨑社長】

アスリートは活躍したシーンがたまたまスポーツだったというだけで、根底にある価値観はビジネスパーソンのそれと同じなのではないかと、私は考えています。

つまり、その価値観を大切にしながら企業で働けば、ビジネス界でも違和感なく活躍できると思うのです。弊社は企業やアスリートの方々が、そんな気づきを得るためのお手伝いをさせていただきます。

突然の戦力外通知

【山﨑社長】

事業を始めようと思ったきっかけをお話しします。

チームのスポンサーをしていると、アスリートの方とお話をする機会が多々あります。ベルテックス静岡の選手とは仲良くさせていただいていますし、清水エスパルスの方ともときどき一緒に食事をしています。

そうやって、テレビや新聞で見るのではなく、一人の人間としてアスリートの方々と接していると、現場のリアルな声が聞こえてくる時があるんです。

具体的に言うと、以前、親しくさせていただいていた選手の方が戦力外通知を受けてしまうのを目の当たりにしました。

結局、その方は他のクラブチームから声がかかってスポーツを続けることができたのですが、苦しんでいる彼を前にして何もできなかったことがとても強く記憶に残りました。

突然の解雇というのは、普通のサラリーマンからしたらありえない話ですよね。しかし、アスリートのみなさんは怪我やスランプで唐突に選手生命を断たれてしまうことがあるんです。

この出来事をきっかけに、私はアスリートの方々が引退した後の長い人生において、何かお手伝いができないかと考えるようになりました。

そうして生まれたのがAth-upです。

無防備なまま社会に投げ出されないために

【山本さん】

「全国のアスリートを静岡の企業に」というテーマなので、働く場所は主に静岡の企業ということになりますが、アスリートの所属チームや団体は全国どこでも構いません。

フジ物産が取り組んでいくことなので、まずは静岡の企業への紹介をおこなっていきたいと考えています。地元企業間の繋がりを活かして、できることからやっていきたいですね。ただ、将来的には活動の幅を全国に広げて、「日本スポーツ界のセカンドキャリア」という大きな課題に切り込んでいきたいとも考えています。

すでに他の地方の企業からも「フジ物産のような取り組みを自分の地域でもやりたいです」みたいな問い合わせがきています。まだ先の話だと思いますが、セカンドキャリアサポートのエリアを超えたネットワークのようなものも実現できたら面白いですね。

静岡みんなの広報さんで掲載されている企業も「移住」というテーマに取り組んでいますよね。もしこれが「アスリートの移住」となれば、大きな拡散力を生むと思うんです。アスリート時代の話や「今、どんな生活をしているか?」という内容も話題性がありますし、地元の魅力を発信する広報係にもなってもらえる可能性があります。

実際、関西出身の選手が静岡のチームに移籍して、引退後もそのまま静岡に住んでいるような例もありますからね。

【山﨑社長】

地元出身の選手が全国に散らばってるってケースもあります。

とくに静岡はサッカーが盛んなので、全国のクラブチームで活躍している方がリタイアとともに静岡に戻ってきたくなるような情報発信をしていきたいです。

【山本さん】

引退前に地元のチームに戻りたいと考える選手もいますね。ただなかなか思い通りにはいかないようです。

【山﨑社長】

アスリートの方々の間でも考え方はさまざまです。引退後を含め、とても先のことまで見据えてプレーしている方もいれば、そんなことは目もくれず、一心不乱にプレーに取り組んでいる方もいらっしゃいます。

だからこそ欧米のように指導者たちが、「君たちにはセカンドキャリアがあるんだよ」「引退後の人生の方が長いんだよ」といったことをしっかり教えられるようにしていかないと。そのような教育メソッドの整備にも何かできないかなと思っています。

引退後の身の振り方に対するマインドセットをしておくことで、リタイア直前で苦しむことがなくなり、パフォーマンスも向上するでしょう。また、幼い頃からプロアスリートを目指す方々の助けにもなるとも思っています。

日本ではまだこのような考え方は歴史が浅く、ちゃんとやっているのは相撲業界くらいです。相撲はお給料から積み立てで退職金が出る仕組みがあるんですよ。

だけど、他のスポーツ業界では引退後の人生を支える制度があまり確立されていません。Jリーグなんかも30年くらいやって、やっとそれが課題として浮かび上がってきました。

スポーツ庁もセーフティーネット制度の整備に取り組んでいますが、まだまだ選手たちは無防備な状態で社会に投げ出されている感じです。

せっかく素晴らしいプレーで私たちに感動をくれるのですから、引退後の道を整えるのはスポーツを楽しんでいる私たちの仕事ではないでしょうか。

サラリーマンなら、5、60歳になっても結果を出せる可能性は高いですよね。定年の年齢も引き伸ばされ、業界に残り続けることが当たり前のように語られる世の中になりました。

しかし、同じ年齢のアスリートがスポーツ業界に残りたくても、コーチや監督といったポジションは枠が決まっていますし、その中で十分な給料が出る方はさらにかぎられているとお聞きしています。

でももし、その方たちの潜在能力を引き出すことができて、ビジネスパーソンとして一般の企業でも本領を発揮できたなら、会社や社会によい影響を与えられるのではないでしょうか。

キャリア教育の必要性はアスリートにかぎらない

【山本さん】

アスリートのセカンドキャリアにかぎらず、日本のキャリア教育はまだまだ不十分のように思えます。

僕も大学で就職活動をするまで、キャリアについてしっかりとした情報を得る機会がありませんでした。ただその後、最初に入ったのが人材系の会社でキャリアに関する知識を学ぶ機会に恵まれました。

せっかく身につけた知識ですので、キャリア教育という分野で役に立てたいと考えています。まずは、Ath-upを通してアスリートにおけるキャリア支援のメソッド、セオリーを確立できたらと思っています。

いずれはAth-upの取り組みを広げていき、アスリート以外の学生や社会人へのキャリア教育に影響を与えられればと考えています。

【山﨑社長】

キャリア教育は国家レベルでの課題です。静岡サレジオで進められている国際バカロレア教育など、まさに将来を見据えた教育方針ですね。

国際バカロレアは、IB機構(本部・ジュネーブ)が世界の複雑さを理解、対応できる生徒を育成し、国際的に通用する大学入学資格を与えて進学ルートを確保するために作られた。

静岡新聞(https://www.at-s.com/news/article/shizuoka/1075291.html

最近やっと公立の小学校でもキャリアパスポートという取り組みが浸透してきていますが、海外に比べて日本は遅れているように感じます。アスリートのセカンドキャリアについては、ほとんど知られていないのではないでしょうか。

【山本さん】

昔は終身雇用が一般的だったので、会社がキャリア形成を後押ししてくれているも同然でした。ところがみなさんご存じの通り、今はそういう時代ではなくなりつつありますね。

【山﨑社長】

「どうする、人生100年時代」が叫ばれる日本です。70歳、80歳まで仕事をしなければいけないと言われているのですから、私たちも他人事では済まされませんよ。山本くんに言われて、「これは日本国民全員に関わる大問題だ!」と危機感を覚えました。

【山本さん】

話は少し逸れますが、外部の方やスポーツの指導者の方がキャリアについて話すことで、より説得力を持つシーンもあるのではないかと、僕は思っています。

たとえば学校の先生の話は右から左でも、自分が所属しているスポーツチームの監督の言うことは真面目に聞く子どもたちは一定数いるはずです。

かく言う僕も、子どもの頃にサッカーチームの監督に言われて響いた言葉がたくさんあります。とくに中学の頃の監督が面白い人で、練習中に紹介された本の話が印象的でした。ホリエモンの本や孫正義の苦労話など、監督の口から語られると興味が出るんです。

監督やコーチの口から語られる言葉は、学校の先生から「勉強」という形で教えられるより妙な説得力を持って幼い僕たちの胸に響いたものです。

そう言う意味でも、スポーツの指導者がキャリア教育のメソッドを持つということにはメリットがあるんじゃないかと思っています。

【山﨑社長】

とても良い監督さんだったんですね。ただ、山本くんが出会ったのがたまたま本やキャリアに興味のある方だったというだけで、「勉強なんてしてないで練習しなさい!」って方も中にはいますよね。

指導者ないしアスリートたちが、均一化された知識を身につける場面がどこかで必要なことは間違いありません。

地道な取り組みが未来につながる

【山﨑社長】

事業を始めるにあたっていろいろと調べたところ、私たちと同じような取り組みをしている企業や団体もありました。

セミナーに特化しているところやマッチングに特化しているところなどスタイルはさまざまですが、関係者の方のお話を聞くかぎり、どこも定着しているとは言い難いようです。

【山本さん】

企業であるかぎり利潤の確保が求められるため、横への展開を焦りすぎているということもあるかもしれません。その点、僕たちは地域密着なので、地元の経営者やクラブチームにターゲットを絞っています。

「繋がりをつくる」という地道で泥臭い部分がしっかりしているため、取り組みに安定感を出していけると考えています。

ただしそれだけだと、アプローチできるアスリートや企業の数に限界がきてしまいます。メディアを上手く使って、より広く展開していく必要もあると考えています。

何はともあれ、まずはAth-upのプログラムを浸透させることを第一に考えています。しっかりと向き合って情報を届けていければ、アスリートたちも耳を傾けてくれるのだという実感はあります。

あとはビジネスの初歩を知って自信を持ったアスリートと、彼らを本気で迎え入れたいと思ってくれる企業を着実に繋げていくことが僕たちの仕事です。

これを地道に、着実に取り組んでいくことで、セカンドキャリア事業の未来が開けていくと考えています。

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