2026.01.06
在宅医療で地域を救う|静岡ホームクリニック 内田貞輔理事長インタビュー

いずれは、すべての看取りが「笑いのある看取り」になることを願っています。
——そう語るのは、訪問医療を専門に行う静岡ホームクリニック(医療法人社団貞栄会)の内田貞輔理事長です。
同院は2015年の開設以来、地域の医療を支えるとともに、患者さまやご家族を丁寧に支援するために「地域連携室」を立ち上げるなど、誰もが満ち足りた老いの時間を過ごせるよう、寄り添う医療を実践しています。
内田理事長は、どのような想いから訪問医療に力を注ぐようになったのでしょうか。また、訪問医療を通してどのような未来を実現しようとしているのでしょうか。
目指すのは「動く総合病院」
静岡ホームクリニックは、在宅医療(訪問診療)を専門とするクリニックです。

在宅医療とは、通院が困難な患者さまのもとに私たち医者や看護師が訪問して、診療や治療、療養上の相談などを行うサービスのことです。介護認定を受けた方のもとにホームヘルパーが訪問するのと似ています。
一般的な病院やクリニックといえば月に1、2回行き、診察したり薬をもらったりして、「次回は○○日に来てください」……みたいなものを想像されると思います。そして、もし夜中に体調が悪化したときは救急にかかるわけですが、これらは自分から動ける人のためのサービスなんです。
私たちは足が悪い方や外出が困難な方を中心に、昼夜問わずいつでもご自宅で診療をさせていただきます。たとえば、夜中に熱が出たとか、胸が苦しくなったとか、少しでも不安なことがあったら気軽にお問い合わせいただいて結構です。
私たちが目指すのは「動く総合病院」です。
総合病院では内科・外科・耳鼻科など各種の医療が受けられますが、弊院にも様々な専門領域をもつ医師が在籍し、患者さまのもとへ私たちが伺うことで、動く総合病院を実現すべく活動しています。
笑いのある看取り
弊院では看取りに立ち会うことも少なくありません。そういう意味でも、訪問医は患者さまやご家族に一歩深く踏み込む必要があります。
病院だと亡くなる場合は直前まで延命治療を行うことができるわけですが、在宅医療には、そこまでの設備はありません。どちらかといえば、家族と一緒にいる時間を増やしたり、最期を穏やかに過ごしてもらう目的があります。
ゆえに「○○先生(担当医)に看取ってほしい」「ホームクリニックだったら一緒に看取ってもいい」という信頼関係をつくることが求められます。そのような関係をつくるためには、患者さまがどんな人なのか、どんなご家族がいるのかを知らなければいけません。
また、病院で亡くなった場合と自宅でなくなった場合の、ご家族の心境の違いを意識することも大切です。
親族が病院で亡くなるのも、もちろん大変なことではありますが、自宅で看取る場合は、ご家族はその過程を含めて一緒に経験します。
ご飯を用意して、定期的に様子を見て、体を拭いてあげて……というのは、簡単なことではありませんが、その過程を経ることで「いい看取り」になっていくんです。
ここには、亡くなる瞬間に立ち会って悲しさだけが溢れ出るのとは違った感覚があります。たとえば、「落ち着ける環境で見送れたという安心感」「最後まで一緒にいられたよ」「やりきったよ」みたいな気持ちが生まれるのではないでしょうか。
いずれはすべての看取りがそうなってほしい。そんな想いから弊院では3つの行動指針を定めています。
「一緒に寄り添い、一緒に悩む」
「その人の役割を考える」
「笑いのある看取り」
行動指針を軸に、患者さまにとって何をすることが大事なのかを常に考え、実行していきたいと考えています。
在宅医療は新たな医療インフラ
ビジネスの多くは「こんな商品が売れそうだな」とか「こんな社会課題があるな」という観点から始まります。しかし、開業医はそうではありません。自分の専門領域のその先に開業があるケースがほとんどです。
私の場合、もともとリウマチ内科が専門でした。リウマチと言えば、手足の関節に炎症が起こり、痛みや腫れが生じる病気です。症状が進行すると体を動かすのも辛くなります。すると、その延長線に在宅医療という選択肢が見えてきます。
つまり、自分の専門性とできることがたまたまマッチした結果です。
ではなぜリウマチ内科を選んだかといえば、長く付き合っていく医療スタイルが性に合っていたからです。
医者を志した当初は器用だったこともあり、外科医も検討していました。ですが、研修医時代にいろいろな科を回り、多くの指導医の先生と関わる中で、自分の信念のようなものが見えてきたんです。
それが患者さまに寄り添い、伴走しながら治療していく医師になりたいという想いでした。
開業するにあたり、設けた理念は「患者様が誇りと尊厳のあふれる人生を全うし、ご家族が命を受け継ぐ一助となりたい」です。
少し前まで在宅医療というと、終末期の方にとって「病院でできることはもうありません」というある種の宣告でした。しかし今では、在宅医療・在宅看取りはごく自然な選択肢の一つになりました。
最期の時間を病院で過ごすか、老人ホームか。あるいは家で過ごすか——その人らしい選択が尊重される時代になったんです。そこで「家」を選択するということは、在宅医療とワンセットになります。
もはや、在宅医療は「医療のインフラ」とも言えるでしょう。普通の病院・クリニックではできないような医療業界の新しいインフラを整えるような役割が弊院にはあると考えます。
寄り添うための「地域連携室」
私たちのクリニックの特徴として「地域連携室」という部隊があることが挙げられます。地域連携室を設置したのも、患者さまやご家族に寄り添うためです。
地域連携室とは、専任スタッフが病院やご家族、ケアマネジャーさんなどから患者さまの状態を細かくお聞きして、その方に適切な診療体制を整えるための部隊です。
普段の診療だけだと、患者さまやその付き添いのご家族一人ひとりとじっくりお話しをする時間が取れません。でも、心の中では不安が渦巻いているものです。診察中に数分しか話さないのと、一時間じっくりとお話しするのでは心の軽さが全然違います。
そうやって腰を据えてお話しすることで、病気との向き合い方や看取りへの心の準備を整えるのが地域連携室の主な役割です。また、大切な人を失ったことで生じる悲しみに寄り添い、心の回復を支える「グリーフケア」につながる活動も行っています。
他にも、在宅医療における契約関係や他の機関との連携などにおける潤滑油的役割など、今やなくてはならない部隊になりました。
訪問医として成長できる静岡
この業態は比較的新しいもので、認知されるようになったのもここ20年ほどです。とくにコロナ禍をきっかけに利用者も増え、「訪問」という名称は広まりつつあります。

また今後、高齢者の増加が想定されることから、国はこの制度を推し進めていく方針ですが、業界自体はまだまだ過渡期にあると考えます。
たとえば、人員の確保や専門性の維持が今後の課題です。
医師も看護師も専門職ですので、国家試験を取った後に、一定期間鍛錬を積むことがデフォルトです。先輩医師の下についてノウハウを学んだり、フォローをしてもらいながら成長していきます。
ところが今、それが難しくなってきています。
事情は様々ですが、研修期間の給与が低いという事実も深く関わっていると考えられます。私が研修だった頃も生活がカツカツでした。親の仕送りがないと生活できない研修医も少なくありません。自分より上の世代はもっと酷くて、 アルバイトをしながら生活を維持していたと聞きます。
今はだいぶ改善されたようですが、それでもやはり研修期間は金銭的にも肉体的に厳しいです。とくに在宅医療となると、夜間でも何かあったらすぐに駆けつけないといけない。気が休まりません。
結果、手っ取り早くお金を稼げる専門性の低い業界に人材が流れてしまっています。
働き方の整備は医療業界における喫緊の課題だと考えます。だからこそ、本質的な学びが得られる環境が求められるのです。
そのような意味でも、静岡はいい場所だと思います。
東京のような都心部にも在宅医療をやっているクリニックは数多くありますが、どこも分業化が進んでいる印象があります。昼間は昼間、夜間は夜間と分断されているんです。
やはり昼と夜での診療には大きな隔たりがあります。その両方を経験しなければ、訪問医として成長することは難しいのではないかと私は考えています。
そういった姿勢を学ぶ場所としても、弊院を利用してもらっていいかもしれません。
弊院のように患者が1000人を超えるクリニックは希です。患者さまの数だけでなく、先生も毎日10人ほどいますから、いろいろな先生と話すことで幅広い知見が得られます。実際、4人ほどの先生が弊院から独立していきました。
学びに貪欲な人ほど得るものは大きいのではないでしょうか。
変わらないことへの挑戦
弊院は2025年4月に10周年を迎えました。今後はさらにサービスを充実させるとともに、他機関との連携を強めることで、在宅医療の利用者を増やしていきます。
ただ一方で、「変わらないこと」も意識していきたいです。
まだまだ十分な数とはいえませんが、在宅医療を行うクリニックも増えてきましたし、これからも参入者は増え続けるでしょう。
そうなったとき、業界全体でサービスの質が低下することが予想されます。
新しい商品やサービスが市場に登場した直後は、品質も価格も高く、提供者も限られています。しかし時間の経過とともに参入企業が増え、ラインナップが多様化すると、十分な品質管理が行き届かない商品やサービスも混ざりはじめます。その結果、平均的なサービスの質は低下してしまうものです。
利用者の意識だって変わってきます。利用者の絶対数が増えれば、在宅医療・在宅看取りへの価値観も多様化していくはずです。
そうした変化の激しい環境の中でも、今のサービス品質を保ち続けることが私たちの一番の挑戦になると思います。

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