2022.07.15
勘違いが人を成長させる | 静岡イノベーションベース 代表理事 富田直人さんインタビュー
静岡をベンチャースピリッツ日本一に!
そんな想いから生まれたのが、起業家育成・支援組織「静岡イノベーションベース」です(以下、SIB)。
(取材先)一般社団法人静岡イノベーションベース【公式ホームページ】
SIBの代表理事である富田直人社長は、株式会社イノベーションを創業し、東証グロース市場に株式上場を経験している静岡県浜松市出身の起業家。
今回、静岡みんなの広報は、富田社長にSIB設立までの経緯や静岡ビジネス界の展望を伺いました。
起業家文化を静岡に
静岡イノベーションベースは、静岡の若手起業家を支援する目的で立ち上げました。
会社を大きくしていきたいと考える経営者、あるいは起業をしたけど問題に直面している経営者たちが、先輩起業家と一緒に学び、成長していくプラットフォームを構築していきます。
そしてSIBに集まった起業家たちが切磋琢磨することで、静岡のビジネス界を盛り上げます。同時に、学生や静岡県出身のビジネスマンに向けて情報を発信していきます。
SIBの主な活動は二つ、月例会とフォーラムです。
一つ目の月例会では、毎月国内で活躍する経営者を静岡に招いて講演をしていただいています。
たとえば直近ですと、5月は東証プライム市場に上場している株式会社エル・ティー・エスの樺島社長、6月は株式会社フィックスターズ(東証プライム)の三木社長がお越しくださいました。
起業家は株式上場するまで順風満帆に上手くいくことばかりではないんですよね。私もそうですが、ほぼ全員と言っていいほど失敗、挫折を経験しています。
SIBでは成功談だけでなく、失敗経験もシェアしてもらっています。
「自分はこのようなことで失敗をした」
「その失敗をこのように学びに変えて、成長につなげた」
クローズドな環境だから言えるリアルな話や経験談を静岡の起業家にシェアしていただき、学びにつなげていきます。
二つ目のフォーラムは、SIBのメンバー同士で行うグループコーチングです。仕事、家庭、個人の側面から一ヶ月間で起きた重要な出来事、大きく感情を動かされたエピソードをシェアしていきます。
「経営者は孤独」と、よく言われますが、順調そうに見える経営者でも、家庭内に問題を抱えていたり、「じつは倒産寸前だった」なんて話も往々にしてあるんですよ。本当に苦しい時は、従業員や取引先、家族にすら相談できません。
以上は極端な例だとしても、毎月の出来事をフォーラムメンバー内で共有し合い、気づきを促し、経営者として成長していくのがフォーラムです。
会社は経営者の「器」以上に大きくはならないんですよね。だから自分の至らない点に気づき、「器」を大きくしていかないといけません。
世間一般で言われるコーチングは「何かを教える」というイメージがあると思いますが、フォーラムではアドバイスは禁止です。
「君の会社はここがダメだから、こうやった方がいいよ」とか、「君は経営者としてここがダメだから、こう直した方がいいよ」とはならないのがフォーラムの特徴です。
あくまでも「経験のシェア」。他人の悩みに対して、「自分や自分の周りでこんな経験をした事がある」と、経験を共有することで気づきを促していきます。
また、フォーラムでの会話は、守秘義務があるので決して外部に流れることはありません。そのため、メンバー同士も心理的安全性が保たれた状態で悩みや経験を情報共有することができます。
我々の活動のバックボーンにはEO(Entrepreneurs Organization)があります。EOとは本部をアメリカに置く起業家のネットワークです。世界で14,500名以上の会員を擁する世界有数の起業家組織であり、先駆的な起業家支援をおこなっています。その仕組みとノウハウをSIBに持ってきています。
SIBのミッションは「ベンチャースピリッツ日本一」です。
これはあとで詳しく説明しますが、静岡にベンチャーの文化をつくっていきたいと思っています。
これは同時に、私なりの地元への恩返しでもあります。
環境が人をつくる
経験から感じるのは、「環境が人をつくる」ということです。
そもそも、地方では上場企業の人と関わりを持つ機会が少ないですよね。静岡県内では起業家としてグッと伸びている人は東京と比較して少なく、起業家がクローズアップされることもあまりない印象です。
激しい競争によって情報や経験が蓄積されていく東京とくらべると、地方はビジネスパーソンとしてレベルアップしにくい環境にあると、どうしても感じてしまいます。
一方で、もし周りが頑張っているビジネスパーソンばかりだったら「自分も頑張らなきゃ」と思うでしょう。周りがすごい経営者ばかりだったら「自分もあの人たちみたいになりたい」と思うはずなんです。
つまり、静岡が頑張っている人たちで満たされれば、「僕も!」「私も!」 と声を上げる人たちが増えていくということです。
成長の場に身を置くように意識してきたというのもあるでしょうが、ありがたいことに、私の周りには頑張っている人が多かった。
SIBのメンバーもみんな努力家で、「負けてられないな」と思います。つねに仲間たちからエネルギーをもらっているんですよ。また、自分のエネルギッシュな姿を見せることで、仲間たちの士気も高まります。
「勘違い」で次のステージへ
私自身、周囲の環境や付き合う人たちから強く影響を受けてきました。
もちろん、だからといって最初から会社を上場できるなんて思っていたわけではありません。なんせ、売上ゼロから始めるのですから。尊敬する経営者から学び、彼らに追いつけ追い越せでせっせと事業を育てました。
さらなる成長を期待して加入したEOでしたが、そこにいたのは圧倒的な力を持つ上場企業の社長ばかり。「なんだ、このとんでもない人たちは!」と驚かされました。
このように、自分より格上の人たちに囲まれることが重要なんです。刺激を受けるというか、感化されるというか、人々のレベルの高さに圧倒されると同時に「この人たちができるのなら自分にも絶対できる!」と勘違いできるのです。
みなさんには勘違いしてほしいんですよ。起業や上場なんて全然難しくないんだって。「自分にだってできるんだ!」って勘違いすることで次のステージへの扉が開くと、私は考えます。
そうやって環境が勘違いさせてくれたから、今の私がいると確信しています。
今の静岡は、残念ながら「勘違いしにくい」状態にあります。多くの人は起業できると思っていないし、そもそも起業したいとも思っていない。そのような方々にとっては上場なんて夢のまた夢。
たとえば多くの方は、県内の優秀校を卒業して県内の大企業や東京の優良企業に入ることが順当な人生だと考えています。
そんな静岡を変えていきたい。優れた経営者を多く輩出することで、続く後輩たちにも「自分も経営者になりたい」と思ってほしい。
沼津で漁業をやっている家に生まれて、「漁港を盛り上げるぞ!」でもいいし、「雑誌で見た社長がかっこいいと思ったから!」でも、起業のきっかけはなんでもいいんです。人々を起業へと掻き立てる文化が大切です。
文化を整え、静岡のベンチャースピリッツを日本一にする。そして、日本の産業を根っこから変えていく。それこそが我々のミッションです。
静岡への恩返し
私なんかは父が経営者でしたので、幼い頃から将来は会社の経営をするものだとばかり思っていました。大学を卒業して就職したのも、父の仕事を継ぐまでに社会経験を積んでおこうと考えたからです。
そうして就職したリクルート(現・株式会社リクルートホールディングス)でも、私の周りには「いずれ独立して自分の会社を持つんだ!」というような強い野心を持った同僚ばかりでした。
ビジネスパーソンとしての成長は、私にとって当たり前の選択だったのです。
結果として私は家業を継ぐことはせず、東京での起業を選びました。マーケティングをITの技術でサポートする株式会社イノベーションという会社を設立し、時々つまずきながらも、念願だったマザーズ上場も果たすことができました。
しかし静岡を離れてから20年間、私はずっと考えていました。何か地元に恩返しができないか、と。父の仕事を継げなかったことへの心残りもあると思いますが、「地元でやり残した感」は頭の片隅に居座り続けました。
そんな折に、親交のあった株式会社メディアドゥ(東証プライム上場)の藤田社長が、「地元でこんなことをしようと思っている」と話してくれたのがイノベーションベースの構想でした。
EOと連携しつつ起業家を育成していくことで、地元を盛り上げようというのです。イノベーションベースの理念は「地元支援」という部分で、私の考えていた恩返しにフィットしました。
イノベーションベースのノウハウは、徳島と岩手のイノベーションベース立ち上げに関わることで学ばせてもらいました。そうして2020年、県内や県出身の起業家とともに満を持して立ち上げたのが静岡イノベーションベースなのです。
優れた経営者を大量に輩出することは、地元に雇用を生むだけに留まらず、起業家を育む文化をつくり、静岡、ひいては日本のビジネス界を急成長させてくれるでしょう。
要するに好きなんです
静岡イノベーションベースを立ち上げた理由は、「地元への恩返し」ともう一つ、「使命感」というものがありました。
頑張りが空回りしてしまっている若い起業家を見ていると黙っていられません。問題を抱えている彼らを見ると、「なぜ上手くいかないのか?」「なにを悩んでいるのか?」が私の経験とオーバーラップします。これはもう、支援しないわけにはいられませんね。
「資金が足りない」「マネジメントができない」「メンタルが安定しない」といった苦悩の経験は私にもあります。起業して20年以上会社経営をしているので、私もだいぶ失敗していますよ(笑)
私なんかはかろうじて失敗を乗り越えられましたが、もしかしたら、彼らはその一回でダメになってしまうかもしれない。
この先5年10年続けていたら、世界を動かす大きな人材になるかもしれないのに……。可能性の芽を枯らしてしまうのは実に惜しいです。
先ほど「使命感」と言いましたが、本音はちょっと違うかもしれません。要するに好きなんですね。好きなうえに自分にできるんだったら、「やらなきゃ」って思うでしょ(笑)
我々がちょっと後押ししてあげるだけで、グンと成長する彼らを見てみたいんです。そして成長した彼らから新たな刺激をもらい、自分もさらに成長したいのです。
機会を創り出す
人の能力には大きな差はないと、私は考えます。仕事のできないAさんも、ものすごく仕事のできるBさんも、天才と噂されるCさんも、元々の能力やポテンシャルにおいて目立った違いはありません。
それでも大きな成果を出せる人というのは、ただチャンスがやってくるのを待つだけではありません。自ら機会や課題を創出し、それを解決する方法を考え、行動に移してしまうんです。
これはリクルートの創業者である江副さんの言葉です。
機会を創り出せるかどうかは、記憶力が良い、計算ができる、コミュニケーションが得意といった、目に見える能力とはまったく別の性質です。
「創り出す」というと大袈裟に聞こえるかもしれませんが、SIBが気になったから様子を覗いてみるとか、気になる経営者が講演会をするから会いに行くとか、ちょっとのことでいいんです。
静かに待っていないで、とりあえず一歩を踏み出す。それを繰り返すことで機会を創り出す筋肉がつき、ベンチャースピリッツが育っていくんですよ。
県内の経営者の方、起業に興味がある皆さん、ぜひ一度SIBに遊びに来てください。学生さんも大歓迎です。
毎月第二金曜日実施の月例会はどなたでも無償で参加できます。
みんなで静岡県をベンチャースピリットNo.1にするべく、盛り上げていきましょう。
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