2026.01.30

静岡発、世界初の水圧技術。原発処理など世界の難題に挑む|NACOL株式会社 インタビュー

水道水で機械を動かす技術「NADS(ナデス)」シリーズ

NACOL株式会社
副社長/博士(工学)杉村健さん
技術部設計課 課長 下山弘高さん

世界で初めて実用化の水圧駆動技術

NACOL株式会社は、水や油のエネルギーを気体のエネルギーに変換して蓄える液圧用アキュムレータ(蓄圧器)、およびそれに付随するバルブ類の開発・製造・販売を行っているメーカーです。創業から70年を超える歴史を持ち、産業用アキュムレータ市場においては国内トップシェアを誇っています。

令和7年度の静岡市中小企業技術表彰を受賞した「NADS(ナデス:NACOL Aqua Drive System)」シリーズは、他の製品とは性質が異なります。最大の特長は水で駆動する機器である点です。

これまで圧力駆動の機器は油圧や空圧が一般的で、水圧で駆動する実用的な製品は存在しませんでした。この技術を世界で初めて実用化したのが当社のNADSシリーズです。

過酷な環境下で働くロボットへの活用

水圧駆動の長所として、衛生面での安全性が挙げられます。

たとえば以前、魚介類を扱う企業で荷物を持ち上げたり移動させたりするリフターが破損する事故がありました。機器は油圧駆動だったため、破損によって油が漏れ出し、工場内が汚染されてしまいました。食品を扱う現場では、清掃と安全確認が終わるまで操業を再開できず、大きな影響が出ました。

その点、水圧駆動であれば漏れるとしても水道水ですので、汚染のリスクは極めて低いでしょう。丸洗いも可能なため、高い衛生基準が求められる食品、医療・医薬品、半導体分野などへの利用も期待されています。

また、当社は近年、水圧駆動を用いたロボット開発にも取り組んでいます。とくに、過酷な環境下で作業を行うロボットへの搭載を構想しています。

たとえば、高放射線環境下で稼働するロボットへの応用ができます。

原子力発電所での汚染デブリ処理などでは、放射線の影響により電気系統の機器は短時間で故障してしまいます。その点、水圧駆動であれば放射線の影響をほとんど受けず、万が一事故が起きても二次汚染の心配がありません。さらに、メタンガスなど有毒かつ可燃性ガスが充満する下水管内で活動するロボットへの応用も考えられます。水圧駆動は火花や熱を発生させないため、爆発のリスクを大幅に低減できます。

現在、機械装置の駆動源は、電気・油圧・空気圧が主流です。しかし今後、入手や廃棄が容易で、クリーンかつ安全な当社の水圧駆動が新たに加わることで、新たな社会価値の創出につながっていくことを願っています。

成功の理由は「先入観を持たなかったこと」

水で機械を動かすという発想自体は、じつは新しいものではありません。

過去にも多くの企業が挑戦してきました。しかし、最終的にビジネスとして成立した例は一つもありませんでした。開発にあたっては私たちは、そうした過去の失敗事例を踏まえながらアイデアを練り直していきました。

開発における最大の障壁は”水の性質”でした。機械の世界では、潤滑油のように油を使うことが一般的です。一方で、水には潤滑性がほとんどなく、可動部の消耗が早いんです。また、水はわずかな隙間からでもすぐに漏れ出てしまいます。漏れを抑えつつ、摩耗も抑える。そのちょうど良い塩梅を見つけるために、材料や形状を一つひとつ見直し、試行錯誤を重ねてきました。

開発に成功した理由の一つに、「先入観を持たなかったこと」があると考えます。

私たちはこれまで水を使った製品の開発経験はありませんでした。水圧機器に関する知識は、ほぼゼロ。しかし逆に言えば、知らなかったからこそ挑戦できた面もあるはずです。水圧機器を扱ってきた企業から見れば無謀と思われるような試みや失敗も数えきれないほどしてきました。

試作品はすぐに壊れてしまうものばかり。2日も持たないことも珍しくありませんでした。

それでもあきらめずに改良を重ねた結果、現在では1,000時間超の稼働が可能となるまで耐久性を高めることができました。

挑戦を促すNACOLの風土

会社の風土も、今回の開発成功の大きな要因だと感じています。当社では、失敗に対して責任を追及するよりも、「そこから何を学ぶか」を重視する文化があります。失敗は学びの機会だと捉える考え方が社内に根付いています。

加えて、挑戦することに対して前向きな会社でもあります。

たとえば、社員が「これをやってみたい」と手を挙げたことはできる限り尊重します。社内にノウハウがなければ、すぐに社外の講座や研修に頼ります。

通信講座を受講したり、大学の研究室に協力をお願いして一緒に開発を進めたりすることも少なくありません。そうして外部で得た知識や経験を社内に持ち帰り、組織全体で共有する仕組みをつくってきました。

そのため、採用においても経験や知識は重視していません。それよりも「興味を持って取り組める」とか「とりあえずやってみようと思える」のような、前向きな姿勢を大切にしています。

大切なのは、仕事を楽しめるかどうか。嫌々ではなく、自分からやりたくて取り組んでいる人。そういう人と一緒に、これからも新しい技術に挑戦していきたいと考えています。

※本記事の内容は2025年10月時点の情報です。

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